第38話 『夜中』 その20

「いやあ、ここは、どこ? ぼくはだれ?」


「きさま、この後に及んで遊んでるのか?」


 お嬢が真面目に怒っていました。


 ロボット化されても、どうやら性格自体は継承されている感じです。


「あいあかわらず、おとぼけな子だなあ。試すなら父で試せばよいものを。」


「あなた、ぼくの父であると主張できるんですか?」


「まあ、いや、出来ないな。本質的に言って、私は地球人ではない。」


「嬉しいですよ。そのほうが気が楽だ。」


「そうか、良かった。」


「で、ここは、どこですか? 定石的には、宇宙人の地下基地ということのはずです。」


「別に地下じゃあない。ここは我々の土地であって、隠れる必要もない。第一地球人には見えない。構造物はあるが、建物も、我々も、地球人には見えない可視光外の波長で存在する。しかも、地球人の体を構成する物質とは反応しない。よって通常、お互いに関りは持てない。」


「はあ・・・・でも、こうして話している。」


「それが、技術というものだ。我々が地球に来た頃は、まだ不完全な技術であったが、いまや、信頼性の高い技術となった。」


「で、約束を破るわけ?」


「我々自身が地球を征服するのではない。地球人が進化し、我々と共通の土台に達することによって、支配・統合される、そう考えているのだ。もっとも、我がグループは、反対しておる。君が言うように、地球人との約束をたがえることになると判断できる。しかし、いまわれわれは多数のグループに分散し、その考え方は多岐にわたる。これは、地球人も同じだが、両極端に及ぶ主張がある。地球人を全廃して、我々が地球の後継者となるという『過激派』から、地球人を同化して、共に歩むと言うものもいれば、『共存』しようという『穏健派』がいる。また、『共存とは言いながら、一部の支配者層は、地球人の支配者として残し、残りの地球人は有益な労働力として奴隷化するという『優勢派』の立場もある。また、そもそも、ここにいるべきではない。地球からは去るべきだというグループも、少数だがいる。『哲人派』と呼ばれるが、それはその中心には、我が最高の哲学者と言われるお方が入っているからだ。私は、一時、その弟子となったのだが、いまは、袂を分かっている。いろいろ、あってな。」


「あの、あなたは、そもそも、ぼくの父の人格を残しているのか? それとも、記憶があるだけなのか? どうもそこが良く分からない。」


「ふむ。それは、極めて哲学的な問題だ。記憶がその生命体の固有さを決める全てであるならば、君の父親の一部を継承しているが、しかし、君の父かと聞かれれば、肯定はしないだろう。」


「じゃあ、お嬢は?」


「彼女は、そもそも肉体自体がすでになく、特殊な物質で構成されたロボットだ。本人ではないが、記憶は継承している。」


「私は、地球人ではない。」


「ああ・・・そうでしょうとも。くそ。」


「『くそ』、は余計である。」


「まあ、そういうことだ。しかし、現状は厳しい。わが一族は、『過激派』とは別に『伯軍』主流部から分離した、一部エリート地球人と手を結んで、地球人の大幅な人員整理と、残ったものの『ロボット化』、または『完全奴隷化』を推進する立場の『優勢派』が実権を握ろうとしている。そのエリート地球人の中心人物が、君たちの国の首都にいるのだ。」


「ううん・・・・どうも、あなたがたの内部分裂の状態が、まだ、よくわからない。あなたの立場も明確ではないし、ぼくの身の危険度もよくわからないですよ。ぼくも、このあと、改造されるのかな?」


 御飯小路の兄が口をはさんできました。


「いや、ご心配は当然ですよ。いいですか、ちょっとお邪魔して・・・じゃあ、現状の大まかな、わが種族の勢力見取り図を示しましょう。さっき、妹と、ざ~とまとめておいたので。」


 がらんとした、なんの調度品もない、区切りさえよくわからない透明な空間に、映像が浮かび出たのです。


 市役所支所でも見たのですが、人間と付き合う上で、彼らにとっては、これは便利な用具だったに違いないです。




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