第35話 『夜中』 その17

 30分後・・・


 ぼくと親分の双方に、ほぼ同時に電話がかかったのです・・・・・・



『ああ、待たせたな。いいか? しゃべるぞ。』


 参事の声でありましょう。


『ああ、実は、どうなってるんだかよくはわからんが、君んとこの係長は、国の隠密だったということだ。市長と部長と主幹は知っていたらしいが、俺は蚊帳の外だった。ということだな。違うか。君は知ってたか?』


「いいえ。ここで、さきほど、ご本人さまから白状されましたよ。」


『そうか。まあ、そうなんだろうな。いいか、良く聞き給え。君は、この任務からは解任。明朝、直ぐに帰りたまえ。地位は奪われないから安心したまえ。お嬢は、そこの国庁舎内の診療所で隔離する。君の後は、巌本君(親分のことです。)が担当する。後の二人は、そこに残る。人手が要るだろうから、人事課からひとり若手を明日すぐに送る。面接会は、予定通り行うこととしてほしいという、大臣からの直接の要請があったんだそうだ。なんで、大臣なんだ? とは思うがね。市長はその意向に逆らう気はなさそうだ。つまり、この面接会というものは、どうやら国が黒幕だ。ついでに言うと、俺も事実上の更迭で左遷。来週からは、市の漁港の施設長だそうだ。お魚と漁師さんたちを、この先お世話することになる。重要ポストだよ。』


「はあ・・・・ふうん・・・・いいでしょう。そのうち、あなたは部長になりますよ。じゃあ、ぼくも、体調がすぐれないので、帰還が困難です。有給休暇申請します。いいですね? とりあえず1週間は休みます。」


『まあ、俺には、拒否はできんな。・・・無茶するなよ。手は出すなよ。金は出せないからな。』


「いいです。自費でまかないます。」


『処分があるかもしれないぞ。いいな。』


「いいでしょう、覚悟の上ですよ。このまま帰れないですよ。けりをつけなきゃあね。」


『わかった。では、健闘を祈る。』


 ぼくが電話を切るのとほぼ同時に、またまた、親分も終了しました。


「聞いたんだろうが、あなたはこの件から外された。あとは、私が引き継ぐ。さっさとこの部屋から出て行ってもらおうか。部外者がいては迷惑だ。朝が来たら、すぐに本土に帰って、邪魔しないように、してほしい。」


 親分はそう言い放ちました。


「あいよ。ぼくは、今日から休暇だから。勝手にさせてもらう。」


 ぼくは、ドアを開けて、そのまま無言で自室に戻りました。



 ぼくの部屋の大きな『枕』さんが、宙を舞いました。



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