第33話 『夜中』 その15
ぼくは、ホテルの部屋の窓際を陣取って、参事に電話を掛けようとしていました。
電話ったって、真夜中ですからね。
常識の範囲外です。
しかし、出かけるときに、ぼくは参事から言われていました。
「大事の時は、いつでも連絡してくること。怒鳴るかもしれないが、気にせず話せ!」
そうなんです。
この方は、親分肌で、すぐに怒鳴るという欠点があります。
それでも、気にせずに、こっちの言いたいことを、さっさと話してしまう必要性があるのです。
もっとも、時間が時間ですから、向こうも、尋常ではないとは考えるでしょう。
きっとね。
でも、いったいどう説明するのか?
『ここの住民は、やはり妖怪変化で、人間に乗り移ったり、改造したりするんです。お嬢が改造されてロボットになりました。彼らは本土制服をもくろんでいます。そこで、面接会は中止にしましょう!!』
『ぶ!』
思わず笑ってしまいそうになります。
けれど、次にはこう言います。
『結果、この国の人間は、みなロボット人間になります。さらに『世界征服』が始まるのです!!』
『ぶぶぶっ!!』
本当に吹き出してしまいます。
「あの、・・・統括・・・大丈び!?」
番長が、ぼくの横で心配そうに尋ねて来ました。
一方、親分は、部屋の反対側の片隅で、電話を掛けています。
あいつが、要領がいいのは、よくわかっております。
どうせ、ぼくの解任も含めて、市に圧力をかけるように話してるんでしょう。
ときに、ぼくは、同時にふと思っていたのです。
今も部屋の真ん中に陣取っている、あの、真っ黒な衣装の、『スパー・スパー』と言う、有名『宇宙戦争映画』の超悪役か、はたまた、ハロウィンの霧の中からやって来た『悪魔』のような存在の事です。
その『ウインク』が、すごく気になりました。
だって、あれは、ぼくの父親が、ぼくに対してのみ、良くやった親父芸だったからです。
つまり、この怪物は、もしかして『父』の、なれの果てなんじゃないか・・・。
冗談じゃない!
そう思っているうちに、電話の向こうから大声が響きました。
「こっら~! 何時だと思っとるのだ~~~きさまは~~~~!!」
あららららら、しっかり、約束どおりにやってきます。
「参事、大事ですから、怒鳴っててもいいから聞いてください。」
ぼくは、結局、さっき考えたことと、ほぼ同じことを言いました。
すると、参事は急に静かになり、眠ってしまったように、反応が無くなりました。
「参事~~~! 起きてますかあ~~~?」
「きさまあ! 証拠出せ。証拠!!」
「はいはい。じゃ、お嬢に変わります。・・・・どうぞ。」
まったく無表情のまま、(まあ、これまでもそうだったんですが。)お嬢は電話機を受け取りました。
「はい。あたくしです。はい。・・・・・あたくしは、もはや人間でハナイ。彼らの忠実な、人間ロボットでアル。」
何も知らずに聴いていたら、D級ホラー映画か、漫才のようなものだったでしょう。
しかし、お嬢と参事の電話内容は、あたかも、氷さえもさらに圧縮されて、永久凍土になりそうな感じだったのです。
親分の方は、小声でくちゅくちゅと、しゃべっていますが、内容はわかりません。
「・・・ナラバ、地球ハ、間モナク、征服さ、レルデショウ。・・・・・」
お嬢の方が、ぼくよりも、しっかりと、現状を客観的に説明してくれております。
「・・・・ソレ、ナラバ、コチラノ マヌケ統括ニ、トウメン、従いマス。・・・・・ハイ。」
やがて、お嬢はぼくに電話機を返して来ました。
「はいはい。」
『ふん・・・・・・わかった。勤労省の課長と話してみる。市長もたたき起こす。うちの市長からすぐ大臣は、・・・まあ、ちょっと仲が悪いから、無理かもしれないが、少なくとも次官補までには、なんとか言ってもらおう。で、場合によっては、知事にも出て来てもらおうじゃないか。ただし・・・期待するな。俺は異端児だからな。』
「わかってます。ぼくは、その弟子ですから。」
『お父上は見つかったか?』
「はあ・・・それがですね、そこは、ちょと・・・保留します。」
『ふうん・・・・・わかった、じゃあ、待ってろ、30分以内に、何らかの返事するから。ダメでもな。』
「了解であります。頼みますよ。あなただけが希望なんですから。」
『ふん!まあな、じゃな。あとで。』
電話は切れました。
参事が、ぼくの持っていない情報を握っているんじゃないかと、いささか疑心暗鬼でもありましたが。
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