第32話 『夜中』 その14
「ともかく、面接会は、中止していただきたい。」
怪人さんは、再度、そう要求してきました。
「あなたがたは、なにかと証拠を要求されるお立場であることは分かっています。国と自治体がぶつかることも良くあると承知しております。そこで、この女性を証拠としてお使いください。間もなく、このようなことが大量に発生し、人類はロボット化され、奴隷化されて、お国の独立性すら危なくなるということを、市にも県にも国にも、理解してもらえばよいでしょう。」
「ぼく自身は、中止すべきだと考えていましたよ。だから、その方向でこの後すぐに報告したいと思います。」
「だめです。もってのほかだ。何と言われようが、統括ひとりの判断で決める事ではない。」
「こらこら、ここでの判断は、ぼくが行うんだよ。」
「いいえ、さっきも言いましたが自分は特に国からの任命を受けております。ほら、これが証拠。」
親分は、任命証を提示しました。
「むむむ・・・ご無体な。」
「だから、なんで、今まで、黙ってたのよお! 卑怯じゃないのさ。」
番長が噛みつきました。
「政府『隠密』とは、そういうものです。いずれにせよ、私がここでの最高位であり、指示を出します。面接会は予定通り行います。お嬢は、終了まで、政府庁舎で身を確保します。」
「そんな権限ない。勝手に身体の拘束はできない。」
「いや、その権限も与えられているのです。いいですか、本来、あなたのような、一市役所の、『ぼんくら統括』が采配するべきものではないのだが、参事があなたびいきだから、こうなったんだ。しかし、あの人も間もなく更迭されるだろう。今後この面接会に関しては、ぼくが、つまり、国が主導権を執る。」
「陰謀だね。クーデターかい? この面接会の主催者は我が市だよ。国側は、勤労省の出先機関である『スローワーク』が、協賛機関になってるだけ。そこは変わらない。ぼくにっとっては、君の言う隠れ身分はともかくも、君は上司じゃぁない。参事に連絡する。そこから、国とは話してもらう。現場の判断は僕がする。中止すべきだよ。」
「きみも、お嬢と共に庁舎に保護する。」
「お断りだね。」
怪人さんと、御飯小路兄妹は、内輪もめを面白そうにながめていたのですが、やがてこう言いました。
「あなた方のお国の中枢には、すでに『侯軍』と『伯軍』、さらに『優勢派』のエージェントが入り込んでいます。彼らが、しだいに政権を誘導しているのです。これまでは、一応我々とも共同して対処してきていたので、無茶はしなかったが、先ほども言いましたように、『優勢派』がこのところぐんぐん力を付けて来ています。実は、この際打ち明けますが、この背景には、ひとりの『超越者』が現れたことが、大きいのです。まだ、その正体はよく分からないのですが、非常に超越した能力があると考えられています。その力によって、すでに各派閥の均衡が破れ始めています。このままでは、間もなく『優勢派』がすべてを支配してしまうでしょう。この島だけでなく、地球全体もね。面接会を中止するのは、小さな抵抗に過ぎないが、それなりのアピールにはなるのです。あなたも、『優勢派』に操られてるんじゃないかと思いますよ。」
サブ・リーダーさん=怪人さん、は親分に向かって言いました。
「その指摘は筋違いである。これは内部の問題だ。あなた方の干渉などは受けたくない。」
「では、統括さんは、市の参事さんに、あなたは国の上司に指示を求めては?」
御飯小路の兄が言いました。
「断る。ぼくの『こけん』にかかわる。」
「はあ、頑固な人だ。」
御飯小路さんも、あきれたようです。
「じゃあ、貴方方全員を、我々が保護します。」
怪人さんが言いました。
「は?」
これは、親分です。
「あなたがた全員が、行方不明になれば、そりゃあ、中止になるでしょう。」
「いやあ、それは、もっと困る。」
「簡単な事ですよ。アッと言う間に幽閉できます。」
「むむむむ。・・・仕方がない、じゃあ、上司に確認する。やむおえん。」
「どうぞどうぞ。」
怪人さんはそう言い、ぼくに、なんと、ちらっと、ウインクなど、してきたのでした。
きっと、裏の意図があるに違いないです。
この怪人さんも、信用できるかどうかは、かなり疑問でした。
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