第30話 『夜中』 その12

「私は、『穏健派』のサブ・リーダーといわれる、ある存在であります。」


 その怪人が言いました。


「本来の存在は、人類には見えないが、あなた方に会うにあたり、このような可視化を選択した。いかがですかな?」


「はあ、インパクトはあります。」


 ぼくが答えました。


「しかし、なぜ、お嬢が、ああ。ぼくらの同僚が、そこにいるのですか? その格好で。」


「うむ。実は、このたび、我々は『伯軍派』と協力協定を結んだ。」


「・・え・・ ?!・・・」


 こんどは、御飯小路の兄が、びっくりしたのです。


「・・・なぜですか?」


「きみには、伝えてはいなかった。ごく一部の幹部だけにしか、事前には伝えていなかった。これは、最近『優勢派』が台頭し、地球人類の隷属化を強行しようとしていることに鑑み、それを阻止することが、目的である。ああ、この人類の女性は、『伯軍派』により、情報収集のため、昨夜拉致された。あなたがたは当然知っていたのだろうが、この女性には、特殊な能力がある、我々の姿を、正しくはないが、一部視覚化して認識ができる。この能力についても、実は「伯軍派」は、非常に興味があったようだ。もともと返す気はなかったらしいが、我々の協定が実現した事から、少しの交渉の上、返還してもらったので、お返しする。ただし・・・」


「ただし・・・?」


 ぼくが、いかにもいぶかしそうに返しました。


「すでに、脳に一定の処置が行われていた。これは、残念ながら回復処置ができない。」


「どういうことですか?」


「ロボット化処置だ。これは『伯軍派』が研究していたものだ。乗り移る手法はすでに確立されているが、物理的に人類の脳を支配する方法である。」


「ちょっと、あんた、じゃあ、お嬢はどうなってるの?」


 番長がつっかかりました。


「『伯軍派』の意志を体現するロボット人間になっている。もっとも、今回の協定によって、あなたがた人間に、全面協力するように指示されている。自分を人間とは、すでに思ってはいないので、そこは注意してほしい。今後どうするかは、あなた方、次第である。」


「そんな、むちゃなあ!!」


 ぼくが叫びました。


「それが事実なのです。」


 突然、お嬢自身が言いました。


「私は、生まれ変わった。それだけのことです。統括のご指示には全面的に従います。死ねと言われれば、自分の肉体を殺します。誰か殺せと言われれば、躊躇なく実行します。それだけのことです。」


「と、いうわけだ。しかし、私がここに来たのは、それが主眼ではなかった。あなた方に、協力を要請するためです。」


「なにを、この上に!」


 ぼくが、珍しく怒りました。


「そうよ。お嬢を元に戻しなさいよお!」


 番長が助太刀してくれます。


 不思議な事に、なぜか、親分は沈黙を守っていました。



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