第19話 『御飯小路さん』その4

「あなた、もしかして、そこを探ってたの?」


 ぼくが尋ねました。


「いやあ、まあ、あなた方の動向は、気にしてましたよ。そんな気がしただけです。」


 青年が、やや、きまり悪そうに言いました。


「今日、昼間来た時、あなた、ここにいたんじゃないですか?」


 ぼくは、さらに尋ねました。


「ねえ、言った方がいいよ。」


 お嬢さんが、青年に小さな声で言いました。


「地球人の助けが、必要だよ。」


「こら、しっ!」


 青年がたしなめました。


 まあ、この青年には、いささか、ドジなところがあるようです。


「ふうん。裏がありそうですなあ。あなたがた、なに隠してますか?」


「いやあ、別に・・」


 青年が言いました。


「でも、じゃあ、まずは、ぜひ、あなたのお父さんに、会わせてください。」


 ぼくは、お願いいたしました。


「それがですね、いやあ・・・本人は、人間には会いたくないのです。」


 青年が言います。


「ぼくは、市役所で、幽霊さんと会話しました。筆談のようなものです。だから、姿は見えなくても可能なはずです。」


「はああ・・・・まあでも、そういう事情があるので。」


「あの、あなた達は、じゃあ・・・」


 番長が尋ねました。


「ええ、兄妹です。こちら、妹です。」


「どうも・・・」


「ふうん。あの、判っていただけると思いますが、父がこの島で、行方不明になってることは事実なのです。もちろん、証拠はないのですがね。ぜひ協力してください。もし直接が駄目なら、間接的にでも結構です。父の居場所を教えてもらってください。・・・あの、これは、ここだけの話ですが。」


 ぼくは、少し間をおいて言いました。


「ぼくは、この島のことについては、半分以上は、疑ってかかっています。だいたい、幽霊のような存在があると言うことは、まず信じられません。いくら宇宙人でも、この同じ宇宙の存在であるならば、あり得そうにないと思うのです。でも、政府は大まじめに『面接会』をすると言う。おかしいのですよ。実は、父もそう思っていました。これは、公に言われると、ちょっと困るので、絶対に言わないのですが、事態が事態です。父が見つかるのならば、仕事を放棄したって、ぼくはかまわないです。教えてもらってください。」


 これは、ちょっとした、賭けだったのです。


 青年は言いました。


「よくわかりますよ。」


「そりゃあ、そうでしょうよ。お互いに、協力しましょうよ。ね、きっと、裏の事情があるんでしょう? 誰かに指示されたんじゃないですか? 可能な事ならば、協力しますよ。市は、どっちかと言うとね、実は、むしろ『宇宙人には懐疑的』なんです、からね。場合によっては、面接会の中止を国に進言することも、すでに考えています。まあ、無理でも、延期くらいには、出来るでしょうし。ぼくは、下っ端とは言え、それなりに力もあるしね。」


 ぼくは、思い切って、そう言いました。


 おお嘘です。


 市長さんに、ぶん殴られることでしょう。


 いやあ、その前に、親分に、ぼこんぼこんに、されるでしょうけれど。


「いやあ、そう言われると、困ったなあ。この島の住民はね、みんなあなた方に、興味津々ですからね。情報が欲しいと言われたことは事実ですよ。まあ、この店の運営も、この島の世話に相当、なっているので。また、父は、彼らの仲間になったとはいえ、新参者ですから・・・立場がいささか、微妙でね。でも、悪気はないのですよ。ちょっと、探っただけですから。あの、少し時間をください。相談してみますから。また、明日の晩ということで、どうでしょうか?」


 お嬢さんが、兄を見つめています。


 しかし、ぼくは、ふと思い浮かんだことがありました。


「番長、ちょっと、親分とお嬢がなにしてるか、探ってみて、くれないかな。」


 一般の携帯電話は、最近になって、通じるようになっていました。


「ああ、わかった。」


 兄妹たちが、かなり、居心地悪そうになりました。



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