第14話 『夜中』その1

 予約したホテルは、市役所支所のすぐ前です。


 部屋は個室にしております。


 ごく普通の、ビジネス・クラスのホテルであります。


 しかし、夕食は、ばらばらになりました。


 いかに、結束がないグループかとあきれますが、それでも、ぼくは全員にお食事プレゼントをしようと思っていたのですが、親分はあからさまに、拒否。


「まさか!」


 という、ご返事でありました。


 お嬢は、これはもう信念のようなものなので、昼食と送別会などは例外として、通常の夜間は、けっして誰とも一緒しません。


 王子は、どうやら考えた末、親分といっしょに行ったようでした。


 いささか危険もないとはいえないとも思いましたが、まあ、ジャングルの奥地というわけでもなし、探索するのは悪い事じゃあありませんし、本来自由ですし、ぼくがいたらどうなるというものでも、ありませんしね。


 ぼくは、しかしながら、昼間に行った食堂と決めておりました。


 あそこの店員さんと、仲良くなることには、それなりの意義があると見たからですけども。

 ま、かっこよく言えば、です。


 これは、でも、大正解だったのですが。


 番長は、云うまでもなく、ぼくと一緒に来てくれています。


「こんばんはー。」


「あらま、昼間の方ね。おや、お二人ですかあ?」


「まあね・・・」


「あらっら、仲たがいですかあ? まあ、どうぞ。」


「どうも。数日ですが、よろしくお願いしますね。」


「はあい。ぜひどうぞ。」


 これがまあ、数日どころではなくなるなどど、誰が考えたでしょうか。


「なにに、なさいますか?」


「夜のおすすめとかが、ありますか?」


 番長が、尋ねてくれました。


「はい。夜定食が、各種あります。ええと、こちらです。」


「なになに・・・『幽霊夜定食【並】』、む・・・『幽霊夜定食【特上】』むむむ・・・『アトランティス・フルコース』、ふうん・・・『ガマダンプラールのジャヤコガニュアン風ステーク・コース』なんだろう、これは・・・、ええと、『お酒、焼き鳥、お刺身フル・コース定食。』番長どうする?』


「はあ・・・・もうお酒飲んで、いいんですよねぇ。」


「もちろん、勤務時間外ですから。飲み過ぎは駄目ですよ。」


「はいはい。」


 番長は、日本酒に目がないのです。


 まあ、ぼくも何だか疲れたので、『お酒、焼き鳥、お刺身フル・コース』がよいと思ったのであります。


「ああ、はい、これ美味しいですよ。取れたてのお魚を使います。じゃあ、お酒は何が良いですか。これ銘柄のリストです。」


「ぶ! ワインもあるんだなあ・・・でも、これで僕は良いです。『清酒 越がんもどき』ね。親分は?」


「じゃあ。これ。『天樽皇帝大聖(おおひじり)』でお願いします。」


「えと、大きいので、いいですか。はい。わかりました、あと、これ、一品料理です。本土よりも、大分お安いですから。」


「本当だ。なんで?」


「そりゃあもう、補助金が違いますもの。」


「ああ、なるほどね。」


 まず先に現れたお酒で、ぼくたちは、仕事の成功を祈って、乾杯しました。



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