第13話 『市役所』その9

 その夜、ぼくたちはミィ-ティングを行い、大激論となりました。


 まず、お嬢から、彼女が見た通りの事が報告されました。


 それは、要するに、この街には、予想された通り、多くの見えない異星人、すなわち『幽霊』が実在していること。


 彼らは、人間に憑依することが可能で、実際に、ここの市役所支所の人間の多くは彼らにとり付かれていること。


 しかし、それが、本来の精神活動にどのような影響を及ぼしているのかは、まったく分からない事。


 ただ、あのお店の女性は、どうやら、憑依されてはいなかったこと。


 見えない彼らの姿は、(あまり上手ではないお嬢の絵により・・・)『このように』お嬢には見えたと言う事。


 こうした『事実』を踏まえて、どうするか、ということです。


 親分が、その場をリードしたいと考えている事は明白です。


 しかし、番長は、ぼくを立てて、ついでに、自分が主導権を握ろうとしています。


 お嬢は、独立独歩の人なので、常に自分が中心で、派閥を形成しません。


 王子は、その場の状況で、どっちにも加担する用意のある、なかなかの切れ者ですが、まだ若いので主導権を握ると言う意志は持っていません。


「当然、我々は、与えられた任務をこなすだけである。」


 まあ、要するに、これが親分の主張です。


「それは、基本的に正しい。」


 ぼくも、そこについては支持しました。


「でも、もし、このまま面接会を実施したら、採用担当者は、多分、彼らに憑依されるでしょう? きっと。」


「考え過ぎだ。それに、あくまで就労場所は、ここなんだから、外には出ないよ。」

 親分。


「でも、会社の人たちは行き来すことになるんじゃない? それにきっとくっついて、彼らは外に出ることになるわ。」

 これは、再度、番長。


「あの、もともと、政府は、彼らのそうした性質については、理解していたのでしょうか?」

 と、王子。


「そこは問題です。そうした情報は、ぼくらには与えられていないです。」

 と、ぼく。


「お嬢様の能力は、当局に認知されていたの?」

 と、番長。


「いいえ。そうしたことは、あり得ないでしょう。霊能力者という採用基準などはないし、そうした職務分担もありません。趣味の範囲です。」

 と、お嬢。


「そんなことは、そもそも、我々が考える必要性がない。」

 と、親分。


「でも、支所に、そうした『幽霊宇宙人』が存在していることは、公が認めていることだよ。だから、面接会をするんだからね。ならば、連中が…失礼・・・住民たちがそうした能力があると具体的に判断したって、間違いないことでしょう。しかも、歴史的に見て、多くの国が、この島の領有を諦めた。なぜ? そうした能力があると判断したか、疑ったからでしょう。だから、親分が言う事は、元から筋が通らないの。」

 とは、当然ながら、番長です。


「そうじゃない。ぼくらは、言われたことだけをすればよいということなの。君が言う事は、考えるべき事柄じゃない。ぼくらは、指示された面接会の運営を手伝うだけ。」


「乗り移られても?」


「関係ない事だ!」


 まあ、そう言い切る親分の度胸も大したものだけれど、そりゃあ、あまりに硬直的な意見というものです。


「統括は、どう、考えるのですか?」

 と、王子。

 そら、きた。


 そこで、ぼくはこう、申しました。


「面接会は、時期尚早だね。中止すべきだね。本庁に、そう報告する。これからすぐ。その反応を見たい。ぼくら自身が、帰る時には宇宙人だったというのも、しゃれにならないだろう? それを期待されているなら、別だけどね。」


「当局が、知ってたかどうかが、わかる?」

 と、番長。


「まあ、判らないかもしれないけど、意図は推測できるかも。」


「反対。冗談じゃない。それでは、ぼくらの役割から逸脱する。」

 と、親分。


「昇進に影響するかもね。」

 と、珍しく、ぼくが皮肉ったのです。


 親分は、無視しました。


 彼は、来年には『統括職』に昇進する可能性が高く、その先は人によって大きく変わります。


 ぼくなんかは、もう20年も統括のままですから。


 早い人は、とっくに『部長』とか、『なんとか所長』になっています。


「宇宙人になっても、昇進したい? あたしはいやだなあ。統括に賛成。」

 と、番長。


「お嬢はどう思う?」

 と、番長が振りました。


「棄権。」

 と、お嬢。


「じゃあ、あんたは?」

 当然、王子に注目が集まるのです。


「あの・・・まあ、なんか、気にはなりますよねぇ。確かに、係長さんや、他のここの人を見ても、あの、大量のあやしい看板を見ても、なんだか、おかしい気もするんです。いくらか人間離れしていると言うか。うまいこと、直、中止依頼じゃなくて、ちょっと、軟らかめに聞いてみては?」


「なるほど。では『この島の外来人間は、この島の先住住民の影響を、受けている可能性があると考えられるが、このまま、面接会は、実行されても良いものか?』と聞きますか。」


「なんか、いかにも、箱の中の何か未知の物体を、触らせられているみたいだなあ。でもまあ、仕方ないか。『文句言わずにやれっ!!』と言うなら、あやしいなあ。」


「そうじゃなくて、何と言われても、『中止』の指示がないかぎりは、実行しかない。・・・まあ、でも、みんなの心配は、理解はできるから、その文言で、問い合わせすることは、いいでしょう。」


「ほう・・・・。うん。じゃあ、すぐそうする。」


「明日の朝です! 迷惑になる。」

 親分が主張しました。


「いや、いまだよ。のんびりしてなんかいたら、今夜ねられないだろ?」


「聞いたら、あなた、なおさら、ねられなく、なりますよ? まあ、決めるのは、あなただ。」


 親分は、不服そうに、そう、うなったのです。



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