第8話  『市役所』その4


 その職員さんは、名刺を丁寧に出しました。


 『総務係長 アンドー タロウ』さんです。


 ぼくたちは、次々に並んで、名刺の交換をいたしました。


 「いやいや、統括さまが直々にお越しですかあ。恐縮ですなあ。」


 彼は、あまり残りがない、その頭をはずかしそうにかきながら、しかし、あっさりと言いました。


 「まあ、恐縮がられるほどのものじゃあ、ないですが・・・」


 ぼくは、そう答えました。


 横で、親分が、うんうんと肯いております。


 こいつからは、『あんたは、座っててくれたらいいから。じゃまになるから。』


 と、言い渡されております。


 まあ、それで、うまくゆくのなら、結構な事です。


 それから、いよいよ面接会の段取りの話となりました。


「だいたい、正直言って、どういう方々がおいでになるかが、分からないのです。」


 親分が、ぼくの代わりとばかりに、さっそく言いました。


 まあ、実際そうなのです。


 幽霊さんが就職すると言う事自体が、ぼくらにはまだ、よく飲み込めておりませんでしたから。


「実際、そうでしょうなあ。本土では、彼らは『幽霊』と呼ばれますからね。」


「はい。そうなのです。」


「まあ、ぼくも、ここに赴任して、初めて少しわかってきたと言うくらいです。つまり、彼らは二度目の生涯を送る国の、住人なのですなあ。」


「二度目の生涯?」


 珍しく、ぼくらは、一斉に言いました。


「ええ、彼らは二度、存在するです。一度は物質として、二度目は精神として。それで、そのあと死ぬのです。死はすべてのおわりであり、最後です。」


「あのう・・・ですね・・・」


 番長が、口をはさみました。


「二度目って、どのくらい?」


「そうですなあ、ぼくが聞いた範囲では、まだ二度目を死んだ者はいないそうですからねえ。」


「なあんか、おかしいなあ。」


 王子が、それらしく、つぶやきました。


 その程度の事は、みんな、そう思ってますよ。


「あの、それは、我々人類と、どこがどうちがうのですか?」


「公式に、それがあると認められ、その存在が、証明されている点ですな。疑いもなく。したがって、仕事になります。だから、面接会にも、参加可能なわけですなあ。」


「はあ・・・・・」


 ふたたび、ぼくたち全員が、ため息をつきました。


 「だって、見えてないんですけど・・・」


 ぼくが言いました。


 親分が、きっと、睨んできました。


「ああ、統括殿、その点は、ご心配に及びませんです。だって、僕が実際毎日、いっしょに仕事してますからね。ほら、ここにも、来てますし。ね。」


「はあ!?」


 またまた、ぼくらは、一斉に声を上げました。




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