第2話   『変変編』その2

 フェリーには、それでも十台くらいの自動車が乗っかっていたのです。

「面接関連の方も、けっこういるんでしょうねえ。」

 通称「番長」のけいこが言いました。 


「だろうね。でも、なんか声かけにくいねえ。」

 ぼくが答えたのです。


 ちなみに職責上、圧倒的に一番上なのは、ぼくですが、ぼくは通称「普通人」といわれているのです。


 文句言わず、大人しくしているように、周囲から言い渡されているのであります。


 というのも、「命令」してしまったら、部下たちにとっては、非常に具合の悪い事になりかねないからである・・・、と、言われるのですから。


 特に今回は、相手が「幽霊さん」なので、とびきりまともで優秀な職員である「親分」こと「たかし」と、「おぼけ」で「普通人で超変人」のぼくと、恐れを知らない「番長けいこ」、それにあと、霊能力が高いと言う、「お嬢」と呼ばれる「むつこ」と、神社の跡継ぎである「王子」こと、「いさお」、という、絶妙な組み合わせになっているらしいのですね。

 これは、まあ、出かける前に、役所のトイレで盗み聞きした情報でありまする。

 

 実際のところを言えば、この船に乗ってきた人たち全員が、異常な緊張感に包まれていたと言うべきなのです。

 島全体が、まさに、「超異常現象スポット」なのですから。


 ぼくたちは車に乗り込み、親分、たかしの運転で、フェリーから上陸しました。


 検問所で、『通過許可証・上陸許可証』と、全員のIDカードを提出するのですが、この時の相手は、幸いなことに「生きた人間さま」でありました。


 それにしても、奇麗な街です。

 本当に奇麗なのです。


 ごみひとつ、いえ、ちりひとつさえ、見当たらないのですから。


 しかし、誰でもすぐ気が付くと思うのですが、まず自動車がほとんど走っていない・・・


 いまは、フェリーから降りたばかりの自動車が少し固まりを作って走っているのですが、他の車は全く見ないのであります。


 フェリー乗り場で、数台のトラックが待っていたのは見たのですがね。

 おまけに、人の姿が全くないのです。

 したがって、音がしないのであります。


 もっとも、自分たちの車も、最新鋭の電気自動車であります。

 ガソリン車も、ディーゼル車も、ハイブリッド車も、この島では通行禁止なのであるのです。


「まあ、言ってみれば、この街全体が「お墓」なんだからなあ。」

 ぼくがつぶやきました。


「ぐほん。」


 ほとんどスキンヘッドに近い「親分」が、おまえは余計なこと言うな、という感じで咳払いしました。


 まあ部下のくせに生意気な奴だと、思わない事もないのですが、おんぶにだっこなので、仕方がないのです。


「ねえ、やっぱり、看板とか、みんな変ですわよ。」

 お嬢が気味悪そうに言った。


「ほら、あそこ、『タマラン銀行』。こっちは、『ぜつぼう総合病院』でしょう。」


「ううん、ここも変よ。『日本で一番安く買います、高く売ります』リサイクルショップ『宝のくず』だって。」

 「番長」けいこが、そのまま読んだ。


「ううん。いやあ、見れば見るほどすごいな。『ナオ・サナイ内科』『スーパー・シナウス』『メンタルクリニック「断崖絶壁」』『鮮魚・活きのいいヒト喰いザメ専門店』『オチル総合大学予備校』『みさいるショップ《人類滅亡》』『阿波内結婚相談所』。それから、『ミス&ミスッター・マッチ人材派遣会社』『アタ・ラナイ証券』『ラーメンのびのび』・・・・。ヒえー!」


「もういいだろう。」

 親分が怒ったように言いいました。

「なによ、読んでるだけじゃない。」

 番長が反発したのです。


 この二人は、はっきり言って、仲が非常に悪いのです。

 絶対に合わない、典型的な天敵同士でありまする。

 その分、番長はぼくに気を使ってくれるんですけれどもね。


 なので、上司としては、気にはなるのですが、なんとなく、いつも番長の味方をしたくなるのは、困ったものです。


「まずは食事の予定だから、決められたところに行こう。ああ、そこ右ね。『和食没落園』のとこ。」

 ぼくは、地図を見ながら言った。


「そのさきに『堕落信用金庫』ってのがある。その隣が、指定の昼食場所です。『あたりまえ食堂』だって。」


 そうなのです、こここそが、この先当分、図らずも、ぼくのねじろとなってしまう『あたりまえ食堂』なのであります。


「駐車場もあるじゃない。なんか、まともそう。」

 お嬢が言った。


 ぼくたちは電気自動車を駐車場に入れ、車を降りました。

 それから『あたりまえ食堂』の玄関に立ったのでありまする。


「『普通の生きた人間様歓迎!。普通に食べられるお食事あります』だってさ。」

 じっと黙っていた王子が、面白そうに言いました。

 ぼくたちは、普通の、自動ドアをくぐったのです。


「いらっしゃい。どうぞー。」

 若い女性の、明るい声がしました。


 なんだか、南国風のBGMが聞こえています。


 どこにでもある、当たり前の情景だったのですが。

 そう、思ったのでありまする。


 しかし・・・・

                       たぶん・・・続きます
























 

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