第46話:添寝
もはや当たり前のように少女と並んで布団をかぶり、天井を睨みすえながら思い返す。
少女はあの妖怪を何とかするために、恋仲になれと俺に言った。それはつまり、恋仲になることで俺の何かが変容することを期待してのことだろう。
が、さながら拷問によって発狂したかのような精神状態から一応は正気と思える状態に戻ってみれば、あまり変わった気のしない俺がいるばかりである。
「無駄……か」
これでは、少女がどういう策を想定しているにせよ、その実行は困難だ。つまり、恋仲となったこと、ここ数日の悶絶、それ自体が完全に無意味だったことを意味する。
「あなたの所為なんですからそこで頭を抱えるのは筋違いですよ」
少女の言うとおり、この現状を招いたのは俺自身だ。
「そう言われてもな」
とはいえ、俺は元から自分勝手な人間だ。その意味では人選自体が間違っている。
「そういうあなただから、どこまでも自分勝手なあなただから、私を傍に置いてくれていることも分かっているんですけどね」
少女の策は、俺が自分勝手だからこそ人でない存在をも(歪な形ではあっても)受け入れられることを前提としているようだ。ならば、俺に変容を求めるのは、少女の妹と少女の違いが理由か。それは、つまり。
「問題は、お前の妹にとってそういう俺が辛辣すぎることか」
当たり前の結論だ。俺を平然と受け入れるこの少女の方が、狂っている。
「はい。……え? 分かっていたんですか!?」
少女が、がばりと起き上がった。余程驚いたらしい。
「だから俺は隠遁している」
自分の言動について自覚していなければ隠遁などせず、人里の真ん中で、悪いのは自分ではなく他人だと恥ずかしげもなく喚きながら今日も元気に他人に迷惑をかけ続けているところだろう。いや、さすがに今頃は霧にやられて死んでいるか。
「それでは、私は結局私利私欲を満たしただけではないですか……」
どうやら俺にその自覚を促すことに、策の第一段階としての恋仲の意味があったらしい。ならば無駄な時間を費やした分、とっとと次にすべきことを考えよう。
そんなものは分かりきっていた。
「となると次に必要なのは、他人に合わせる訓練か」
開き直って隠遁した俺の最大の苦手分野。これに尽きる。
「済みません。またあなたを拷問することになります」
確かに拷問だが、それは俺が耐えればいい話だ。というかそうするしかない。
問題は、手段である。他人に合わせると言っても、炊事洗濯食料調達その他、自力でやってきた俺としては、誰かと協力するという発想自体が浮かばない。
「屍食鬼に囲まれた時のことを、覚えていますか?」
少女の質問は、俺達が失敗した『共同作業』について覚えているか、ということだろう。
覚えている。恐らくはこの少女と俺の精神的な同調を要求するのであろう、少女の力による妖刀の炎の顕現。
対案など思いつかない。却下する理由も無い。
「明日の朝は今日までのように惰眠を貪れると思うな」
肯定の返事すら惜しみ、俺は目を閉じた。もう、やることは決めていた。
早朝にこの少女を叩き起こし、普段なら少女の起床を待っていた時間をそれに充てる。
「では、いつもはあなたが眠ってからしていることを今させてもらいますね」
少女は、俺の唇に自身のそれを押し当てた。
朝寝の原因は、このための夜更かしだったようだ。
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