第41話:恋仲
何もする気が起きなかった俺は、一日中縁側に座っていた。
日暮れの赤光をぼんやりと眺めながら、するべき事を考える。
ここしばらく食料調達を怠っていたこともあって、保存食の類の蓄えはほとんど残っていない。すぐにでも霧を晴らして旅にでも出るか、咎めるものすら生き残っていない里で盗人を働いて食いつなぐしかない。
そして少女の妹に対して未だ決定打を見出せない以上、後者を選ぶことになるのだろう。
「決定打、か……」
そんなもの、存在するのだろうか。
存在したとして、俺に扱えるものなのだろうか。
「少しくらい、私の事を考えてください」
決定打に心当たりのありそうな少女が、俺の袖を引いた。
「そうだな。お前の意見を聞こう」
蛇の道は蛇。そもそもここ数日の俺の悶絶も少女の提案によるものだ。そのときは大雑把な話しか聞かないまま少女の提案を容れたが、今日まで俺はじっくりと話を聞けるような状態でもなかった。少女の策を細かく聞くには、確かに今は丁度良い。
「そういうことじゃなくて……もう、あなたも私の心を読んでくれればいいのに」
策を話すつもりではなかったらしく、なにやら不満げに少女はぼやく。
「お前と一緒にするな」
俺に心を読む力がないことを不満がられても、どうしようもないのだが。
「一緒だったら良かったのに」
話がずれている気がする。
「では、お前の事を考えろというのは、どういう意味だ?」
強引に話を戻すと、少女は目をすっと細めた。
「曲がりなりにも恋仲なのですから、少しはですね……」
どうやら責められているらしいのだが、俺にはまるで責められる理由が分からない。
「そもそも、その目的がお前の妹を何とかするためだろうが」
何故なら、俺達が恋仲などになったのも、元はといえば少女の妹をなんとかするためだというのに。
「乙女心の分からない人ですね……」
どうやって分かれと。
「お前と一緒にするな物の怪」
俺のごとき心など読めない普通の人間に何を求めているのだ、この少女は。
「それが恋人にかける言葉ですか」
不満げに少女は抗議するが、そもそもそれが間違っている。
「俺がそんなものを知っているとでも?」
恋仲の作法など、俺の知ったことか。
「……殴らなくなった分言葉が辛辣になりましたね」
少女の言葉は、正しいような気もするし間違っているような気もする。
衝動に任せて少女を殴っている間、俺はここまではっきりとした悪意を持った記憶はない。しかし、少女と恋仲になる前の俺は、だいたいこのようなことを考えていたはずだ。
少なくとも俺の感覚としては、さほど辛辣なことを言っている気はしない。
俺の暴行を歪んだ愛情表現と捉えるようなこの少女のことだ。おおかた恋仲になって俺の悪態の切れ味が落ちたとでも思っていたのだろう。
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