第24話 王の影

「手を引かないと言うのはぬらりひょん殿の意志を無視してでも、か?」


 修練場の外で死神は立ち尽くす。

その足元には妖怪達が転がっていた。

鴉はそれを見て


「あらら、しょうがない奴らですねぇ。まぁ下っ端なんで

あちらの旦那にも手も足も出なかったでしょう」


 おどけて言った。その鴉を無視して死神は腕を組み返答を待った。

鴉もどうやら冗談を言ってる場合じゃないようですねぇ

と言いおどけるのを止めた。


「正直に言えば今うちの組織も肥大化しちまって、

ぬらりひょん殿の意志が全ての意思とは言い難い状況になっちまったんですよ。

それがこの一件でこうなったって訳です。

なんでね、御宅様には大人しくすっこんでて貰いてぇんですよ」


 その返答を聞いて死神は無言で拳を作り構える。

此処は造反組を大人しくさせ時間を作るしかない。

今造反組に動かれては面倒だ。そう思い死神はじりじりと距離を詰める。

だが鴉は嘴を開けぼうっとその動く様を見ていた。


「まぁ良いや。今日は厄日なんでこのまま引きます。

それとこれは独り言ですが、どうも造反組の大将は神野悪五郎。

ぬらりひょん様を退けて自分が旗頭となるつもりらしいですよ。

でも本格的に動くにはまだ時間が掛かる。

前の戦いの時大和武尊様に斬られて、

再生に時間が掛かるらしい」

「御前は何を考えている?」

「さてね。独り言なんでとんと覚えていません。

一つ付け加えるならあちらの修練場とかに居る旦那の事を、

ある奴は盛りに盛って報告するらしいですよ。これは困りましたねぇ

それじゃあ準備を完璧にしないといけない。あ、これも独り言です」

「……助言感謝する」

「いえ、それよりぬらりひょん様がお待ちです。なるたけ早い方が良い。

あの方ああ見えて高揚すると手加減を知らねぇお人ですから」


 そう言うと鴉は自らの羽を広げ、羽根を撒き散らすと

倒れている妖怪たち共々消えて言った。

死神は降り注ぐ鴉の羽根の中を歩き修練場へと向う。

神野悪五郎。

ぬらりひょんが表立って妖怪を率いる代表格であるのに対し、

その対極にいる存在。魔王と呼ばれても居たが、今はその力をそがれている。

大人しくぬらりひょんの妖怪集団に紛れていると思っていたが。

死神はどうやら大きな流れが康禄を押し流そうとしていると感じ、気を引き締めた。



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