第22話 二人の距離
「解りました。でもあまり何回も来られると
本当に皆に変な目で見られます。そうなっても僕には貴女を助ける力が
有りません。それは解ってください」
本心を口にする康禄。それは自分の心を刺す様な言葉でもあった。
そして最悪弟に頼もうと少しでも考えた自分は、
最低だと思い涙が出そうだった。
「皆とか関係ないわ。貴方は貴方よ。そんなに皆が気になるの!?」
彼女は強い口調で康禄に言った。
それを言うには酷だとも思ったが、それでも言わずには居られなかった。
楓はそうなったとしても自分で何とかする。誰にも頼らない。
それに今は二人だけの時間なのに。
そう思うと自分が弱く見られているようで嫌だった。
勿論彼にはそんな心算はない。
楓が何とかしようとしまいと、自分と同じ目に遭ってしまったら
と想像するだけでも康禄は辛かった。それならいっそ嫌われた方が良い。
「セカイは僕達だけじゃ成り立たないんです!
僕と貴女以外の人が居る、そう言う中で
僕の様な人間と親しくすればどうなるか位解るでしょう!」
「解らないわ! そうなった事が無いもの!
なったらどうだって言うの!? 貴方は確かにそうだけれど、
それ以上に可哀想な自分を護る為に逃げているんじゃないの!?
例えどんな貴方だって受け入れても良いって人が居ても、
それじゃ誰も貴方の隣には居られないわよ!
弟みたいに強くなきゃ駄目? 貴方を完全に護れる人じゃなきゃ
貴方と一緒に居られないの?
護ろうと戦う気が無いからそんな事平気で言うのよ!」
「平気じゃない! 魔術が使えないって事がどんなに辛いか貴女には
解らないでしょう! 親所か神様にも捨てられた様なものなんですよ!
何をどう努力しようが何処まで言っても無能力者でしかない
僕の気持ちなんて誰にも解るはずが無いんだ!」
「それはそうでしょうね! 皆貴方と違うもの!
でも魔術魔術ってそれが何だって言うの!?
魔術さえあれば何しても良いっていうの!?
魔術さえ強ければ弱い人を虐げても許されるの!?
貴方がされている事はセカイではもっと
誰にでもされているかもしれない! それが魔術を使えても!
もっとセカイをちゃんと見て!」
涙を流しながら叫ぶ少女に、康禄は何も言い返せなくなった。
確かにそうだ。このセカイでは魔術のあるなしだけでなく、
優劣でも未来が決まる。僕は魔術が使えないだけでなく
人としても駄目だったから虐げられ続けているんだ。
そう思うと自分が情けなくなって強く拳を握る。
そして彼は思い出す死神に言われた事を。
セカイを変える、そう自分は剣と共にと誓った。
それを忘れて卑屈になるなんて。康禄は大きく息を吐き笑顔を作る。
「有難う、忘れていた事を思い出したよ。
魔術なんてなんだ、って生まれて初めて聞いたけど良い言葉だ。
僕はそれを胸に生きる事に決めたのに。神様なんて信じてないくせに、
神様に捨てられたなんて。何て都合が良い話」
康禄は言葉に詰まる。胸の奥から湧き上がる熱いものの所為か、
涙が流れた。でも悲しくない。嬉し涙だった。
楓はそんな康禄を見て泣きながら抱きついた。
康禄はそれを抱きしめる。護ってみせればいい。
一度死ぬ覚悟をし飛び降りた自分だ。
その為なら命を投げ出したって良い一人で死ぬよりずっと良い。
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