第20話 妖刀・百鬼夜行
死神が姿を消すとぬらりひょんは神社の中に入り、
中の仏像の下に納めていた刀を取った。
妖刀百鬼夜行。
ぬらりひょんが生まれてから海で人をからかい、
海坊主の真似事をしたり篭を呼びつけ、遊里に行ったりと
好き放題やっていた時に手に入れた物。
妖刀百鬼夜行はぬらりひょんを諌める為に捧げられた供物だった。
最初彼は妖刀百鬼夜行を受け取ったが拒み、遊びまわり続けた。
だがある日約束が違うとその供物を捧げた鍛冶屋が現れる。
横には妙な男が控えていて言う。これ以上約束を違うなら斬ると。
それを面白く思ったぬらりひょんは百鬼夜行を抜き斬り結んだ。
結果破れ約束通り山に篭る。思えばその手に握られて居たのは天之尾羽張だった。
悔しくて再戦を期する為、ぬらりひょんは我流の剣を磨く。
何十年か経った後、山を降りその武士を捜し当てた。
だがぬらりひょんとは斬り合わないと断られる。
何故かと尋ねると、武士は言った。貴方はあの悪さをする妖怪では無く、
一人の武人として現れたからだと。
そして私は貴方の相手をするには歳を取り過ぎたと言われた。
ぬらりひょんはその武士を見て、己が妖怪であった事を思い出し
頭を下げて山に帰る。
それから大和武尊と合間見えるまで彼は剣を磨き続けた。
己の剣などいかほどのものか。無限に生きる妖怪ですら、超えられない物がある。
それは愛おしくもあり、同時に恨めしくもあったのだ。
手慰みとなった剣の稽古もそこそこに、
妖怪達の愚痴を聞く日々に舞い込んできた尻拭い。
最初は乗り気ではなかったが、誰一人として先頭に立って
最後に責任を取ろうと言う者が居なかった。
それはそうだろう、不満はあるが表立って動けば消滅してしまう。
そして仲間に恨まれる。そんな役を誰も引き受けようとはしなかった。
詳細を聞いた時胸が躍る。
相手方である人間達の先頭には天之尾羽張を持つ者が居た。
ぬらりひょんはやれやれ仕方ないなと言いつつも笑いながら引き受けた。
これで消え去る事が出来る。今度は人に生まれて剣を磨けるよう祈りながら、
恨み辛みを一身に受け戦い続けた。そして念願の、長い間夢見た最後の時が来る。
天之尾羽張を持ち、歴代最強と言われる大和武尊との立ち合い。
自分は姿形はそのまま、だが剣術の腕はあの頃より上。
ぬらりひょんは立場も何もかも忘れ一心不乱に大和武尊と剣戟を交し合う。
その戦いは一昼夜を越えやがて決着を迎えた。
木々のざわめきさえ五月蝿く聞えるほどの一瞬の静寂。
先に動いたのはぬらりひょんだった。
何時までもその瞬間を楽しみたかったが、
邪魔が入ってうやむやにされるのを嫌った。
次にこんな立ち合いに巡り合える可能性は無いだろうとも思っていた。
そして勝負は付く。百鬼夜行を跳ね飛ばされ、胴を切られ吹き飛んだ。
壊れた人形の様に力無く立ち合いをしていた山から転がり落ちた時、
走馬灯を見る。長く生きた自分に意味があったのだろうか。
何一つ残していない。いや、悪名は残したか。
未来永劫悪の象徴として語られるのも悪くは無い。
そう思っていると、意識が遠退いた。
靄の中に立つ自分はこれで御役御免だと胸を撫で下ろす。
其処へ髑髏にボロボロの布を来て鎌を持つ、死神が現れる。
何処へなりとつれて行くが良いと言うと、それは役目に合わない事を言った。
それからは気付くと大和武尊に手を掴まれ、国を支える為に協力を申し込まれる。
敗者としては何も言う事は無いと受け入れた。
別の死神であれば、疾うに滅んでいたであろう。
それ以来遭わないで居た死神の連れて来る者とはどんな者か。
あの立ち合いほど胸が躍れば良いが。愛刀を手に神社を出て境内に佇む。
霧深き森の空を見上げながら死神を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます