第13話 運命の少女
その日、月は曇り空で隠れてしまい、薄暗くなった夜道を一人歩く少女が居た。
鼻歌を歌いながら踊る様に歩く。
今宵も何処かに間抜けな得物は居ないかと探していると、前方に体格の良い
白髪に黒尽くめのスーツと帽子をした男が居た。人間に扮した死神である。
だがその少女、楓はそうとは知らずこれはと思い近付く。
しかし五メートル程距離がある場所で止まった。可笑しい。気配がしない。
それ所か存在すら在るのか無いのか解らない。見えてはいるのに。
様子を探っていると死神から話し始めた。
「今宵は月は出ていないが」
そう野太く低い声で言われ体を硬直させる。何か嫌な予感がした。
じりじりと後退する少女に死神はそのままで話しかける。
「大概にしておけ、と言うのは無理な相談か」
死神は帽子を更に目深に被り両手をズボンのポケットに突っ込むと、
塀に寄り掛かる。それを目を反らしたらやられると思いながら見つつ、
少女は憎まれ口を叩こうとしたが、顔がひくつき声が出ない。
死神は少女の方を向く。気配で解る、あの生き物は怯えている。
得体の知れない者が居るのだから当然か。寧ろ当たり前の反応だ。
そう思っていると初めて弟子に取った少年の顔が過ぎった。
これ位の方がしっくりくる。死に近かったからか、
死ぬ事になっていたから怯えなかったのか。
「な、何よあんた! 私に何の用があるの!?」
甲高い声で叫ぶ少女。男はやれやれと首を横に振った。
どうもああいうタイプは苦手だと思い率直に言う事にした。
「死神が現れるのは死を間近に控えた者か、あるいは」
「あるいは……」
「近い内に死ぬ者、と言う事だ。狐の化生、一体何の目的で人を襲う?」
「あんたには関係の無い事よ!」
敢て尋ねたが、言うはずも無いか。そう考え改めて忠告する事にした。
「はっきり言う。このままなら御前は確実に死ぬぞ」
「ご、ご忠告どうも! でもね、私は運命を変えてみせる!」
死神は大きな溜息を吐いた。運命を変えてみせるなどと言った少女の軽薄さに、
これまでのやり取りを含めて嫌気が差し始める。
何時も誰もが口にするが、それを実現した者は少ない。
本当に変える強さが彼女には決定的に足りなかった。
死神は御節介だと思いつつも忠告する事にした。
「それでは駄目だ。御前は元からそうでは無かったはずだ。
なろうと思えば字櫨の様にもなれたはずなのに。御前からすればあいつは」
言いかけて止める死神。言った所でどれほど伝わるのか。
まだ上がったり下がったりと不安定では在るが、確実に前を向き始めた。
人でありながら人に疎まれ虐げられ、それでも悪しき道にも逸れず。
最後は誰でもない自分自身で命を絶とうとした少年。
それを考えると、彼女のしている事は逃げでしかない。
そう思いながらも忠告してしまうのは、あいつと接しすぎてしまった影響か。
だとすれば大した奴だ。死神はそう思うと自然と笑いがこぼれる。
相変わらず警戒している少女を忘れていたなと思い、別れの言葉を口にした。
「まぁ戯言だと思って聞くが良い狐。もう直ぐ御前を追って少年が二人、
別々に来るだろう。御前が本当に運命を変えられるとしたら、また会おう」
「死神なんかに二度と遭いたくないわ!」
だろうな、と死神は頷く。忠告はした、後は運命が微笑むか否かは神のみぞ知る。康禄が死を選ばず生きている事で先は読めない。
だが彼女には死相が出ている、確定ではないが。
死神は少女に背を向け闇に解けていった。
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