第12話 波紋
「やるな康禄。良く読んだ」
「いえ、死神様の意図を理解して、そうならこうくるかなと思っただけで」
「初日にしては十分だ。此処からはその蒼天戟の教授をしてやろう」
「御願いします!」
死神と康禄は互いに相手の武器を押し飛び退き、距離を取った。
死神は自らの鎌を相手に向け、腰を少し落とし右足を前に出した。
康禄もそれを真似て構える。そしてじりじりと距離を互いに詰め合い、
丁度刃先が当ると同時に振りかぶる。そして刃先同士がかち合うと
死神は少し前に出て、蒼天戟の刃より少し手元に近い場所に自らの鎌を引っ掛ける。
そして円を書く様に回し蒼天戟を跳ね上げ吹き飛ばすと、
康禄の喉元に鎌の刃を当てる。
康禄は参りましたと言おうとしたが、風を切る音がする。
その方向を見ると、蒼天戟が回転しながら向ってきて
死神の鎌を跳ね除け康禄の左手に収まる。間一髪の所で顎を引いて康禄はかわした。何て攻撃的な武器なんだと冷や汗を掻きつつ構えなおす。
死神も飛び退き距離を取り直していた。蒼天戟、あれは持ち手をイメージして
作ったなと死神は苦笑いした。そんな武人は魔術師全盛のセカイには
居ないのに全く。そう思い少し呆れた。
「その武器は心して使うと良い。かなりの暴れ馬だ」
「そう思いました。僕の技量を超えたものを求めてきそうですね」
「なら使いこなす為に修行をするだけだ」
「はい!」
それから二人は日が暮れ、月灯りが街を優しく照らすまで斬り結んだ。
度々康禄を翻弄する蒼天戟に悪戦苦闘しつつも、
多少はマシになったなと死神にそう言われてほっと胸を撫で下ろした。
そして康禄が何故型とかを練習させないのか聞くと死神は、
御前が自室でやっている事で十分だと答えた。
実の所死神も其処は迷った部分ではあった。
だが康禄の自室で行っていたイメージトレーニングは様になっており、
今の所特に注意する点が見当たらない。姿を消し康禄の自室を覗いた時、
蒼天戟以外は其々出てきていた。
その為康禄の型と言ったものは戦える程度には成長していた。
だが蒼天戟の様子を見ると、これからは頻繁に出張って来そうだなと
少し気になった。だが其処からどうするかはその時また考えれば良い。
そして死神は早急にある事を調べる為魔界に行くと康禄に告げた。
あえて内容は言わなかったが、この武器を製作したドワーフに詳細を尋ねる為だ。
確かにディアブロソードは術反射を特徴とした剣だ。
だがバリアを展開する等と言うのは聞いた事が無かった。
そしてその他についても聞いていたのとは別の展開をする物もあった。
今は大きな動きを見せていない化け狐だが、今後人の魂を欲すれば
康武も表立って行動を開始してしまう。その前に把握しなければならない。
康禄には自主練習をするよう言いつけ死神は姿を消した。
家に着くと康武の部屋に明かりが着いているのを見た康禄は、
玄関のチャイムを押す。暫くするとドアが開き、康武が顔を出した。
遅いよ兄さんと少しむっとした表情で言われたが、
申し訳ないと康禄が謝ると何時もの康武に戻った。
それから二人で康禄の部屋で少し遅い夕食を取った。
「兄さん、許可はしたけどあまり遅くなるのはちょっと。最近物騒な事が多いし」
「はい、解ってはいるんだけど、気をつけます」
「それが良い。何やら妖怪が悪さをしているみたいだからね」
康禄はまだ詳しい事を聞いていないが、死神からは
化け狐という事だけは聞いていた。
康武は口の物を飲み込んでから一息つくと
「例のあの教師達が消えた件、どうやら化け狐が絡んでいるらしいんだ」
「そうなんだ。康武は何でそれを知ってるのかな」
「ん、まぁそれはその内話すよ。後学校でもそれで良いんだよ兄さん」
「それ?」
「敬語は要らないって事。兄さんは兄さんだ。
何があろうとそれだけは絶対に譲らない。理想を言えば、
もう少し偉そうにしてくれても構わない」
「いや、それはちょっと」
康武は不満そうだったが康禄はこれ美味しいねと言うと、
康武は材料から作り方まで饒舌に語って聞かせた。
康武が気を良くしてほっとする康禄。何があっても変わらないか。
康武にはそう言う意図は無いだろうが、それはこれからも
弟を仰ぎ見なければならないと言う事になるのかと康禄は思う。
無能力者と万能の仕手。それは天と地程の差があった。
例え今多少武器を使えた所で大して差は埋まらない。
もしかするとこの武器は康武が使った方が世の中の為になるんじゃないだろうか。
死神は何故弟を選ばなかったのだろうか。
そんな暗い思いが康禄の心を埋め尽くす。
「兄さん、御変わりは?」
康武は優しく手を出す。そしてはいと答え茶碗を渡すと、
脇にあったエーテル式炊飯器から米を山盛りにして康禄に返した。
元気が無い時は腹一杯食べると良いよと笑う康武に康禄はぎこちない笑顔で返す。
一生ずっと弟に兄らしい事をしてやれないと思うと、
悔しくて涙が出そうになる。それを気付かせまいと御飯を掻き込んだ。
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