第11話 剣戟
「なら此方から行くぞ」
死神の声と気配を動き回っていた前の方からではなく後ろに感じた。
すぐさま振り向き死神の振り下ろす棒を右足を引いて半身でかわすと、
その引いた右足で死神の棒を踏み死神に斬りかかる。
「まだだ」
死神はそう言うと、踏んでいた康禄の右足を踏まれていた棒で
押し上げバランスを崩そうとした。だが足は上がり棒を取り戻したが、
予測していたのか上がった足は直ぐ地面に着き、
バランスを崩す所か前屈みの姿勢で左の棒を喉元に。
右手の棒を死神の棒を握っている両手首に当てた。感覚で動いている訳ではない、
それは死神にも伝わった。
多分頭の中で何十回と繰り返したのだろう。見事な物だった。
康禄の胸元を見ると六韜兼光が光を漏らしていた。
どうやら剣も主に使われたがっている様だった。
死神は棒を落とした。
「上出来だ。其処までやられたら良く出来たと褒めてやらねばいかんな」
康禄の頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でながら死神は言う。
照れ笑いをしながらはいと返事をする康禄。
だがこれは第一段階に過ぎないと付け加えた。
実際死神以外に通じるかは不明である。何回か斬り結び想像出来分析し
鍛錬した末だ。殺し合いに二度目は無い。戦えばどちらかが死ぬのだ。
丁度六韜兼光も焦れ始めたので頃合かと思い、新たな修行を始める事にした。
先ずは康禄に六韜兼光を出す様に言うと、康禄は首を捻る。
彼はこれまで意識して剣を出してきた事は無かった。
この時も剣は自然と辺りを光で覆い康禄の体の指定位置に収まった。
本来であれば主が呼び出したり仕舞ったりと自らの意思でするものだ。
呼べば答えるだろうが、それより早く剣自らの意思で主と共に在らんとする。
この剣に意志があるかどうかは聞いていなかった。
今度言ったら製作者に尋ねて見ようと死神は思った。
だが現にこうして康禄を思い出てきているので今は意志が有るのだろう。
其処から先は今は考えるのを死神は止めた。何より生き残らなければ後も先も無い。
「では早速次の段階だ。今度はそう巧くは行かんぞ?」
「はい!」
勢い良く大声で返事をする。
全幅の信頼を寄せられていると言うのはこそばゆい気分だなと死神は思った。
何時も誰かに恨まれ恐れられ遠ざけられる。
そんな自分が今は人の弟子を持っている。この事は自分で決めた事だったが、
もしかすると父なる神は御見通しなのかもしれない。
康禄が無能力者として生まれ、自分の弟子となる運命。
そう考えると合点が行くがそうは思いたくない。
康禄も自らの意思で死を思い留まり、自分も康禄を弟子にしたのは
自らの意思で決めた。誰にもゴールは決めさせはしない。死神はそう強く思った。
康禄と死神は対峙する。死神から今までとは違う感覚を受ける。
それはまるで魔術師と対峙している様な感覚。
康禄がそう思った瞬間、右の二の腕から剣が鞘から抜け、
丁度肘の辺りまで鍔が来た所を康禄は柄を掴んだ。
手には一番最初に抜いた剣ディアブロソードが在り、康禄は頷く。
両手で柄を握り前に構えると、死神は何も言わず大きな掌を康禄に向けた。
次の瞬間、小さな火の玉が吹雪の様に風を伴って飛んで来た。
康禄はそれを打ち落とそうと考えたが、数の多さに迷いが生じた。
ディアブロソードは康禄の迷いを感じ自ら動き地面に突き刺さると、
ディアブロソードを中心として青白い光の幕が出来上がる。
次々と幕に当る火の玉。死神は御構い無しに次々と火の玉を繰り出す。
このままでは防戦一方で打つ手が無い。相手の魔力も解らない。
何時尽きるかも定かではない状況では、持久戦に持ち込むだけでは勝ち目も薄い。
引き分けすら怪しい。魔術行使力が完全に枯渇しても疲労度はあれど、
肉体的な疲れはそれ程ではない。幾分落ちても相手は死神。
格上の魔術師には体力も多い者も居ると言う。
そして妖怪は自然発生した物であり、妖力は使うが無詠唱低燃費で
恐ろしい現象を引起す。
特に恨みを持って成長した妖怪はその妖力も桁違いに高い。
康禄はなるほど、遂に化け狐狩り対策も兼ねた修行の始まりですね、と
思いにこりと笑った。それを見て死神は火の玉を更に重ねる。
康禄は周りが火事になる事も考え、防戦から一転交戦に打って出る事にした。
康禄の意志を汲みディアブロソードは幕を解き光を放つ。
すると火の玉は全て死神に向って戻って行く。
其処で康禄はディアブロソードの真の力が防御だとしても、
幕を張るのでは無く跳ね返す反射だと思い出した。
そうと解ればと地面から剣を左手で引き抜き死神へ向けて突撃を開始した。
死神は自分に向ってきた火の玉を素手で全て叩き落し、
康禄に向け火の玉を再度放ち始める。康禄はそれに対して
ディアブロソードを目の前に横にして突き出す。全てとは行かないが
自らに向って来た火の玉をディアブロソードは光を放ち跳ね返したと
同時に全力疾走で間合いを詰めディアブロソードを振り上げる。
「俺の手は一本か?」
死神が空いた手を突き出し両手で火の玉を出そうとした。
何とか康禄は振り下ろすディアブロソードを体の前に出し防いだ。
が、体は後方へ押されてしまい初めの位置に戻されてしまう。
死神は間髪入れず今度は右と左、交互に掌を突き出し
火の玉を繰り出して来た。先程と同じ様にディアブロソードは
地面に自ら突き刺さり幕を張る。完全に攻めあぐねている。
しかもこのままでは確実に被害が他にも出てしまう。
時間を掛けて出来る戦いではない。これが実戦だとしたらと思うと、ぞっとした。
その時康禄の左肩に在った鞘から鍔が離れる音がする。
ディアブロソードを左で握りつつ、その落ちてくる柄を右手で握った。
地面を見ると、柄頭が着いていて其処から辿り上を見ると
刃が少し曲っており、薙刀の様になっていた。
康禄はそれを見て、はっとなる。すぐさまディアブロソードを引き抜き、
薙刀を右手で持ちながら幕を張りつつ前進する。
死神が繰り出す風圧と霰の様に降り注ぐ火の玉の衝撃で、
思う様に前に進めなかったがそれでも前進し続けた。
「やるじゃないか。やっと最後の武器の御出座しだな」
死神はそう康禄に笑顔を向けて言うと、康禄も笑顔で返した。
距離はあと少しで死神に届く位になる。此処で康禄は考えた。
死神としてなら鎌を出し斬り結ぶ。だが今は魔術師及び化け狐対策だ。
となれば此処は何が何でも術で退けようとするだろう。
そして片手で火の玉が出せると言う事は両手で大きな火の玉を出せる、
そう思った直後
「またこれで逆戻りだ」
死神は両掌を手首を合わせ突き出した。
康禄はディアブロソードを地面に着きたて、腰を沈め薙刀を握る手を腰にあてた。
これを跳ね返せ。そう強く念じるとディアブロソードは眩い光を放ち
死神が繰り出した大きな火の玉を弾き返した。近距離での反射であった為
死神は即防御に移り、両手でそれを空へ飛ばした。
「うおおおおっ!」
自分の眼前に迫る康禄に対し瞬時に鎌を出し、振り下ろされた薙刀を受け止めた。
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