14.少女の葛藤は毒と共に
「ポイズン・ガンっ!」
右手でフィルーネは銃を作ると、そこからさっき左手で集めていた紫の液体を銃弾の如く撃つ。その外した弾は周りの植物や石を溶かしていく。それをみて悠哉はおお……と少し感動したように呟く。
「これは具現化させた黒毒ですか?」
「そう。これを喰らえばあなたの体はみるみるうちに溶ける。」
「へぇ。地の術と黒毒の合成技……さすが、天才魔術師ですね。」
「紫の契約書になれて良かったわ。体の一部を壊してもすぐに再生するから、黒毒を申し分なく使える。」
「ところで、体からあなたは黒毒が出るのですね。その人形、どんな構造になっているのですか?」
「知らないわよ、おじさんっ!!!」
そう叫び、フィルーネは毒で岩の槍までも作りあげる。それを間一髪で悠哉は避け、シルヴィアに目をやる。彼はフィルーネの取れた腕を食べていた。口元には血ではなく紫の汚れがついている。
「シアン、あなたもどさくさに紛れて面白いことしてるじゃないですか。まさか女の子の腕を食べる趣味があったとは……」
「この毒が結構体に良いんですよね。ストレス溜まった時とかはよく口にします。」
「へぇ、とんだ悪食ですね。今度私にもご馳走してください。」
そう言って悠哉はシルヴィアにも刃を向け、斬りかかる。それをシルヴィアは、空いた両手で止める。口からは食べかけのフィルーネの指が少し見える。
「……やはり、あなたの体の構造はよく出来ている。黒毒を体にしても死なないと言うのは強いですね。」
自分の左でフィルーネが中級術を展開しているのを気付くと、悠哉は剣を手放すと屋根に飛び乗り詠唱を始める。手放された剣を一人で持ったシルヴィアは重さに耐えられず、体のバランスを崩す。
「緑の制裁よ、しなやかに美しく舞え! ローズ・アクト!!」
悠哉が詠唱をすると棘のある薔薇の茎が地面から3本うねり出して現れ、フィルーネの小さな体を締め付ける。みるみるうちにフィルーネの人形の体はバキバキと壊れていった。声も上げる間もなく、あっけなく粉砕した。
「……人形のくせに黒毒を流しながら死ぬとは、人間っぽくて汚らしい。」
「博士……」
シルヴィアは唖然としながらフィルーネの亡骸を見る。首は取れ、ひざ下は無くなってしまっている。そして罅の入った遺体の下には紫の液体が広がっている。
「さて、処理は終わりました。ちょっと呆気なかったですが。あー、でもどうやって持って帰りましょうか。」
「……ユリウス、危ないよ。」
その瞬間悠哉の体が宙を舞った。一瞬何が起こったのか理解できず、悠哉は辺りを見渡す。目の前には白いローブの男がいる。
「あ、よかった。ちょっと飛ばし過ぎて下に落ちないか心配だったけど何ともなかったみたいだね。」
その男の手には氷の刃がある。それで掌を切ったのか、その氷に赤い鮮血が見える。
「アルテマ……?」
「どうも。本当に君は実験に夢中になると周りが見えなくなるんだから気をつけなよ? 僕に似た彼が、君をまだ見ているよ。」
そう笑顔でアルテマは言いながら、勢いよく持っていた氷をシルヴィアに投げつける。それはとても早く飛んでいき、シルヴィアの右肩に刺さった。
「あがっ……」
「お、当たったみたい。どうせならあの憎たらしい顔に当てたかったなぁ。」
「同じ顔ですよ、あなたと。」
「それもそうかぁ。あと、部外者に継承戦争邪魔されると嫌だからあいつは殺すけど、その後の事を君に相談したくてわざわざ来たんだよね。」
そう言ってアルテマは敵を前にして堂々と屋根に腰をかけた。表情はいつも通りの笑顔だ。
「瑠璃、殺してもいい?」
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