13.僕の娯楽にゲストは必要ない

「うわぁ、これはひどいですね。」

「これを見ても何も思い出しませんか。」

 悠哉とシルヴィアとフィルーネは崩壊しきった永坂邸に着いた。早朝だったせいか事件へと発展はしていないようだ。悠哉はそんなところへ躊躇い無く入って行く。

「いきなりこれはひどいですね。このべっとりした液体は、体液ですよね。」

 悠哉は自分の足元を見てふぅ……とめんどくさそうな顔をしている。黒のビジネスシューズの裏はべったりとこぼれていた体液が付着していた。

「ええ。あの、博士……?」

「なんですか、さっさと血液とか検死の材料を集めてください。私だってこんなところに長居したくありません。」

「……本当にここに覚えはありませんか?」

 いいえ、と言い悠哉は水たまりのように遺体の下に溜まっている血液や体液を試験管に入れている。その時、ふと興味を持ったのか悠哉は死体の顔を覗きこんだ。それは右半分が強打され潰れている、グレーの髪の青年だ。

「ああ、これがあの竜冴って言う子ですか。瑠璃がよく話してくれました。」

「……ということはこの男の子はここの人間だと言いたいんですね。」

「ええ、このグレーの髪は永坂の人間でしょう。まぁあと根拠を言うなら、私服がセレブっぽいということもありますかね。普通の高校生が私服でネクタイを付けるとは思いませんから。それに……少し傷がついてわかりにくいですが、これ魔術師の家紋ですよ。契約書に刻まれる紋章と同じでしょう?」

「本当ですね……」

 どうして思い出さないんだ……。シルヴィアは少し楽しそうに検死材料を集める悠哉を見つめる。

「……ここが彼女の家ですよ。」

「彼女とは誰ですか?」

 そう聞くが、すぐに悠哉はあぁ……と小さく呟きシルヴィアの手元を見た。そこではフィルーネが縦抱きにされて眠っている。

「そうですか。だとしてあなたは私にどうしてほしいのです?彼の死をもっと悼めと言いたいのですか?」

「別にそこまでは言いません。ただ、楽しそうに材料集めをしないでほしいんです。」

「どうしてですか? 仕事は楽しくないとやっていけませんよ。」

「ですが……」

 はぁ……とため息をつくと、悠哉は試験管をゴム栓でしめてシルヴィアの元まで歩いて行く。完全に彼は呆れかえっていた。

「シアン、あなたは優しすぎるんですよ。こんな一人の少女如きに同情しすぎです。つまりあなたはこの少女、フィルーネはここで死んでいる竜冴君の姉で……私が昔ここを襲撃したことがあると言いたいんでしょう? だからなんですか? 私は確かにここに昔来ました、ですがここでこの子が死んでいると言うことは私はこの二人の父親だけしか殺していない。たった一人殺しただけですよ?」

「血液が、欲しかっただけで……?」

「ええ。仕方ないです、朱音と子供を作るためには魔術師の血液が必要だったんですから。」

 あれだけ血を取っても彼は生きていたのですよ、称賛するべきでしょう?

 両手に持っていた試験管を白衣にしまいながら悠哉は笑顔で言った。そして空いた手でシルヴィアの腕を黒いローブ越しに掴む。

「本当はどうでも良いと思っているのに、無理して善人ぶらなくても良いんですよ。この広い世界から人が一人消えようと世界は傾きません。ここの家の方々には感謝しているのですよ? こうして生きていられるのは犠牲になってくださった魔術師たちのおかげなのですから。」

 実際、私が魔術師の血液を集めるために暴れていた時止めなかったじゃないですか。

 真顔でそうシルヴィアに言うと悠哉は手を離し、試験管を取り出し眺めながら永坂邸を出て行こうとする。

「……聞いたよ、あなたがユリウスだったとはね!!」

 その時、さっきまで眠っていた少女が自らの足で地面に立ち怒り狂った眼差しを悠哉の背中に向ける。

「一体、どこから聞いていたのですか? お人形さん。」

 試験管を持ちながら悠哉は後ろを振り返る。よくみるとその中には一本の指が入っていた。

「ここにきてから全部聞いた。ふざけてるんだよね? 何が感謝してるよ……どうしてあんたの子供如きに私達家族を引き裂かれなければならないの!?」

「如きとか言わないでくださいよ。緑と赤では生まれないと言う結論を覆すためにこのユリウス自らが実験したのです。結果、劣の血液が優の血に負けなければいいことがわかりました。なので、何色にでも馴染む人間の血液を狩っていたのですよ。私の不足した血液はそれで補えました、そして初めて赤と緑の子が生まれたんです。」

「…………」

 フィルーネは自分の右腕に触れながら悠哉を見つめ続けた。そして、力を込めて自分の右腕をバキッと折った。痛みなど感じないかのように表情に変化がない。そこからは血液ではなく、紫の液体がこぼれている。

「……お前なんか殺してやる。」

「……殺せるものなら殺してみると良い。」

 悠哉も試験管をしまい、目を少し閉じ覚醒する。姿に変化はあまりないが、瞳は緑に変わり手には彼と同じくらいの高さの大きな翠の剣がある。

「その剣……!!」

「これから楽しい実験が待っているのでね……早く決着をつけさせて頂きましょうか!!」

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