7.勝利の為ならば何だってする
「ひ、博!?」
「どうも。」
驚く三人の方など見向きもせず無愛想に、博は素っ気なく返事をした。家の様子をじっくり見てからようやく三人の方を見る。
「敵同士がよくこんなに団欒と、バカじゃないの? むしろ昼間より夜間の方が敵襲の可能性は高いってのに。」
「……ふぅん、暴走はしてないのか。」
「はは、そこまで堕ちてないさ。」
竜冴は真剣に博の瞳を見ると、ぽつりと呟いた。紫の契約書は瞳の濁り度で堕ち度がわかるのだ。彼の瞳は透き通ったアメジストカラーであった。それを聞いた博は満面の笑顔で言う。嘘偽りのないいつもの博の愛らしい表情だった。……この状況でなければ。
「それで? お前も金持ちの俺を羨んでここに来たのか?」
「いや? お金に関しては困ってないから大丈夫さ。家に用があるんじゃなくて」
「……よく竜冴のボケをすんなり避けているわね。」
「僕はここで冷静にボケとツッコミをするお前らの方が怖いぞ……」
真紅の二人を見て、幸弥はもう恐怖を通り越して称賛したいとすら思う。そんな中よいしょっと土足で部屋の中に博は入る。そして勝手に余っていた椅子に足を組んで座った。
「永坂竜冴、赤野瑠璃。お前らを個人的に殺したい。」
「へぇ?」
驚くことも怯えることもなく、竜冴は博と同じような姿勢になり腕まで組み、挑戦的な眼差しで博を見た。
「個人的に、ということはやっぱり水野美沙のことか?」
「それは表向きだね。継承戦争の敵として倒す、みーの人生を狂わせた奴だから倒す……別にそれらも嘘ではないんだけど。」
……僕は、『美沙の友達の』永坂竜冴と赤野瑠璃を殺しに来た。
にぃっ、と博は不敵な笑みを浮かべた。それと同時に紫色の気体が室内を支配する。瘴気だ。
「ちょ、これ瘴気……!?」
「だな。ちょっと当たったところが痛い。」
「な、お前何普通に毒を触ってるんだよ!!」
咄嗟に瑠璃と幸弥は余裕面の竜冴を引っぱり、玄関から外へと向かう。外に出ると割れた窓ガラスの部屋を覗ける場所に出る。博は背を向けて座っていた。
「窓、開いてるからこのまま僕が瘴気を作りだせばこの結界内は瘴気で満たされるね。」
こちらへと振り返ると博は笑顔でそう言った。そう言っている間にも瘴気は増え続けている。
「あの子、本気で私達を殺そうとしてるわ。竜冴……どうするの?」
「良いじゃないか。どうせいずれは倒さなければならないんだから、さっさと倒してしまおう。契約書を倒せばもう魔術師はさくっといけるだろう。」
竜冴は真剣な表情になると指で銃を作り、その先を博に向け指先から岩の弾丸を放ち始める。ロック・ガン、地の初級術だ。
「そんな弾じゃ僕を殺すことは出来ないよ。」
軽くそれを避けながら博は槍の矛先を竜冴に向けて風邪の如く跳んでいく。
「紫の契約書の弱点、それは……」
……前線でしか力を発揮できないことだ。
竜冴は鼻で笑うとすぐに姿勢を変え、両手に一つずつ地の鎖を出し向かってくる博の両足にそれをひっかけ彼のバランスを崩させる。バランスを崩した博は頭から地面に叩きつけられるが、間一髪で槍を刺し頭から落ちはしなかった。
「しまった……」
「グラウンド・チェインの応用はこういうことを言うんだよ、神田君?」
「……そうかよ。」
ドヤ顔で言ってくる竜冴に棒読みで幸弥は返答する。そして彼は足を縛られて動けない博の元へと行く。
「近寄んなよ、幸弥。裏切り者のお前と話すことなんて無い。」
どうせお前もこいつらと意気投合してるんだろ?
ばーかと言い、彼が近寄ることを許さなかった。
「ちがっ、僕はこいつらと手を組んでなど……!!」
「…………」
博は無言で自分の長槍を振り、その続きを言わせなかった。無表情でそのまま竜冴に近づいて行く……
「西塚君、本当にあの西塚君なの?」
「……それ以外誰だって言うのさ。どうせ、僕が美沙の相方だから殺せないんだろ? 瑠璃さん。」
それを聞いて瑠璃は思わず自分の武器である簪に手を伸ばす。そんなことはない、そう否定しているのを態度にはっきりと表していた。それに博は気付いていながらも無視して竜冴をみる。
「お前、本当に魔術師か? 詠唱が早すぎる。」
「だろ? 俺を誰だと思ってる、永坂竜冴だぞ? あの、永坂の現当主。普通の魔術師と違って当然だろ。」
そう言って竜冴は鎖を引っぱり、博の片足を引っ張る。それを見て博はふざけるなとでも言うように睨みつけた。
「西塚博、藍川高校3年生で成績は学年トップでエリートな陸上部員。兄は勤、従妹は美沙。魔力が人間よりも多すぎるため、契約書へとある日変化してしまった。まぁ兄が魔術師を継いだせいだろうな。でも、契約書になるためには魔力が多すぎるだけじゃいけないんだ。」
……何かに対する強い執着心がいるのさ。
「執着心……?」
「そうさ、こいつは……」
「……黙れ、クソ魔術師が。」
博は余裕の笑顔で話す竜冴が作りだした鎖の一本を素手で千切ると、近くにいた幸弥を蹴り飛ばし竜冴のバランスを崩させる。
「う、おあっ!?」
「お、おっと。」
その緩んだ一瞬を見逃さずもう片方の鎖も千切り、槍を持ち竜冴の背後に周りそれを突き刺そうとする。
「いっっっ……たっ。」
「瑠璃……?」
突き刺そうとした槍の矛先を咄嗟に瑠璃が両手を使い、それを掴んでいた。その矛は彼女の掌の肉をじわりと抉った。銀の美しい矛先は少女の血液で鈍く赤く光る。
「だ、大丈夫。少し抉られただけ。」
「……ば、馬鹿力すぎ、るっ……」
「ありがとう瑠璃。……こんな悪魔はさっさと殺す。」
そう言うと竜冴は倒れ掛かってきた幸弥を立たせると手を奮い、岩の槍を出現させそれらを博の体に次々と刺していく。
「あ、ぐっ!?」
博のふくらはぎに出来た穴から血液がこぼれ出す。黒いズボンの内側では貫通して穴が出来たところから溢れだす血液がべっとりと付着していた。
「……これで終わりだ。」
そう言って竜冴が心臓を刺すための槍を出そうとした時、幸弥が彼を止めた。
「なんだ?」
「……こいつを殺すのは止めてくれないか? 戦争上では敵だが、彼は僕の親友なんだ。」
「いつか殺すんだぞ? 早めに殺しても後で殺しても同じだろ。」
「ゆき、や?」
博は朦朧とし始めた意識の中、自分を殺そうとする竜冴を止めようとする幸弥の勇敢な後ろ姿を見た。どうしてそんなに甘い、馬鹿だろ……そう思いながら今にも届きそうな彼の手を取ることも出来ず意識を失った。
「博が死んだら、美沙が悲しむ。」
「……はぁ。」
そう言って竜冴は手を降ろす。そして再びはぁ、と再びため息をつくと腕を組んでわかったよ、という。
「……水野と西塚の交渉道具にする。」
そう言い、竜冴は気を失った血に濡れた博を持ち運んだ。
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