第5話 ゴールデンウィークに温泉行ってみないか。
私のブックカフェ通いが始まってどのくらいになるのだろう。週に一度決まった曜日に寄るというペースは大崩れしていない。だから、たまに行かないことがあると、次の週には、先週どうしたの?などと声を掛けて来る人が現れるようにもなった。しかし、そんな人とも話し込むようなことはしない。みな、目的はそんなことではないからだ。
私は初め、安易に流せるものとして旅雑誌ばかりを眺めていた。それも表紙の写真が目を引く海外旅行に特化したものを選んでいた。しかしある日、原生林の写真に引かれて手に取ったのは日本の離島の特集号だった。それをきっかけに日本国内を紹介する雑誌を選ぶように変わっていった。海外だと、やはり憧れ止まりと自分で線を引いてしまうが、国内ならば興味を持った場所へ行ける確立はぐっと高まる。
ある日、何気なくそんな旅雑誌で見た温泉町のことを夫に話してみた。特別、そこに行きたいと思って口にしたわけではない。ふと思い出したから、それだけだった。しかし、思わぬ方向に話が転がった。そこは、夫が学生時代にサークル仲間と行ってみようとした温泉だったらしい。サークル仲間か…当時の彼女じゃないの?と勘繰りながら先を促した。
「どんなとこだったの?」
「いや、だから、『行こうとした』って行ったじゃないか。つまり、行ってないんだよ。予定していた日の直前に、途中の山が崩れて鉄道が不通になってね。・・・でも、そうか、あそこ今でもやってるんだ。」
夫はしばらく感慨にふけっていた。
「ねえ、ゴールデンウィークに温泉行ってみないか。空いていればの話だけど。」
「無理よ。ゴールデンウィークまで1ヶ月もないのよ。」
しかし、夫は翌日、その温泉町の外れにある小さな民宿に2泊の予約ができたとメールしてきた。瓢箪から駒というのはこういうことだろうか。本から得た情報が夫婦の会話を豊かにするかもしれない。そんなことを考えたこともあったが、それどころではない。何年も遠ざかっていた旅行に夫婦で行くことになったのだ。
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