中立の管理者

 リアに連れてこられた場所には。大きなクリスタルが浮いている。そして、その中には白いドラゴンが閉じ込められていた。まるで眠っているようだ。


「初めまして。僕の名前はフォルフルゴート。中立の管理者であり、拒絶する存在。様々なものに対する壁のような存在。だからこそ、壁の先のことも知っている。全てを知りたいか? この世界には僕も含め、生存者は3人しか居ない。邪魔されることも無い、ゆっくり考えても大丈夫だ」


「大丈夫だ。話してくれ」


 頭の中に響くような声に答える。おそらくこのクリスタルの中に居るドラゴンがフォルフルゴートなのだろう。


「さて、話すことは簡単だ。だが、何か聞いたらどうだ」


「では、何故動かなかった」


「僕が動いたところで何も解決しない。中立の管理者、管理者のまとめ役、世界の壁となる最強の存在。だが、それはこの物語のたった1人の登場人物に過ぎない。この世界は愉快な喜劇では無い、主人公が全てを解決していくような、そんな話などある訳が無いんだ。どんなに大きな力を持っていても、個人は個人に過ぎないのだから……」


 1人で出来ることなんて確かに限られている。そんな事は誰でも解っている筈だ。だが、どうしてこの管理者はこんなにも苦しげに語るのだろうか


「何か、あったのか?」


「ここに居るのは、たった1人さえも救えず、現実を見ることが怖くなって閉じこもった、臆病者が居るだけだ」


「……そうか」


「では、聞こうか。何がしたい」


「俺は違和感を感じていた。違和感は迷いになった。何かおかしいんじゃないか、メビウスへ近づく度にその思いは大きくなったが、後戻りは出来なかった。俺は何をやっているのか、これで良かったのか、今やっている事は無意味なのではないか、色々と悩んだ。だが、解ったんだ。おかしいのはこの世界そのものだと。消えた仲間の為に、知らなくてはいけない、真実を」


 目的は、世界の真実を知ることだった。そして、ついて来てくれる人達が居た。何か考えがあったのは間違いは無い。だが、俺の味方をしてくれていたのは確かだ。そんな人たちが、道を開く為に居なくなっていった。そこまでさせたのは、この世界自体がおかしいからでは無いのか。だからこそ、俺の真実を知るという道を開いていったのだと思ったんだ。


「そうか、それなら話さなくてはいけない。覚悟はあるか? この話を聞いたら戻れなくなるよ。破壊者プロキアのようにな」


「……大丈夫だ」


 クリスタルの中のドラゴン、フォルフルゴートは目を開いた。まるで、俺を見定めるように。見つめている。


「良いだろう。この世界は〈外部〉が造った。正確には〈外部〉で造られた〈零の映写機希構〉によってこの世界〈レキシ世界〉は作成された。〈零の映写機希構〉は架空世界を作成する機構だ。つまり、この世界は物理的に存在していない」


「何故。〈零の映写機希構〉を造る事になったか。それは〈外部〉が危機的状況に陥ったからだ。人類を保存するための箱舟として〈零の映写機希構〉は造られたんだ。そして、保存する為にはこの箱舟が壊れてはいけない。最優先となったのが自己防衛となるのは仕方の無いことだ」


「試験的に〈零の映写機希構〉に接続し、安全確認をする、それがテスター達の役目。だが、自己防衛優先の〈零の映写機希構〉は自身を破壊する可能性を持つ〈外部〉の無力化を計り。テスター達は閉じ込められてしまった」


「他にも問題がある。〈零の映写機希構〉によって創られた世界は安定しない。だからこそ〈世界転生システム〉と〈管理者システム〉を造り上げた。そして、この箱舟は完成形に近づいてはいるはずだった」


「だが、世界の転生を繰り返すたびに世界に異常が起きはじめた。〈零の映写機希構〉の製作者である〈計画者〉達は何とか改善しようと力を尽くした。テスター達は世界が転生してもデータは保存されている、それは問題ないとして、世界が歪んでいくのをどうにかしようとした」


「だが、間に合わなかった。〈外部〉の危機は全人類を壊滅させるものだった。〈零の映写機希構〉には既に存在する意味は無い。だが、零であっても世界を映す映写機のような機構。全人類の希望を背負った存在として、消えるわけにはいかない、存在し続けなくてはいけない。〈零の映写機希構〉は希望を抱いた存在が居なくなっても、唯一の希望として、存在し続ける」


 〈零の映写機希構〉は〈外部〉が残してしまった産物。終わることの無いという希望絶望を産み出し続ける機構だったという事か。


「僕は思う。物語は終わるべきなのだと。そうだ、物語の終結を願おう」


「俺もそう思うよ。こんなものを残してしまった〈外部〉として、全てを終わらそう」


 メビウスから受け取った管理者の力。空間と時間を掌握する力。まだ、フォルフルゴートの分が足りず、完全な力は扱えないが。ある1点の空間を崩壊させることぐらいなら出来る。そして、中立の竜を砕いた。最後の力を得る為に……


「終わるまでは、終わることは無い。終わる時を待ち続けよう」


 そして、フォルフルゴートの管理者の力を手に入れ、空間と時間を掌握する権限を手に入れた。これを使えば、この世界を破壊できる。





「僕はヌル君の選択に任せようと思うよ。例え、それが無難な選択だとしてもね。辛い選択を迫ってしまっているのだから、強要なんて出来ないんだ。どうすればいいのか僕にもわかんないんだから、どうしようも無いけどね。なんにしても……。終わる時が来るまでは、続き続けるし、終わりを待ち続けるよ。いつか、きっと、新しい選択を選んでくれると信じて」

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