統合されゆく

 グリア、ロウタと別れて先に進む。これで良かったのかと、迷いは否めない。だが、今更戻ることも出来ない。俺には、進むことしか残されなかった。


「ククッ、ようやく来たか」


「アンタを待っていたよ」


 何も無い部屋にたどり着いた。そこにはメビウスとレアルが待っていた。まるで俺がここに来ることを解っていたように、いや。実際には誘導をしていたんだろう。


「この部屋の先は、フォルフルゴートの存在している世界に繋がっている。ククッ、私達を倒し、先へ進むしかない。さて、この姿でいる意味はもう無いな」


 メビウスの姿が変化している。頭上に金色の天使の輪が現れ、それが捻じ曲がることによって、無限を象る。白い翼を生やし、白い衣に身を包んだ。だが、メビウス本人の姿は人形。木で雑に作られた骨格に、頭部分に包帯巻いて、顔の代わりに赤く目が描かれている。まるで、案山子のようだ。


「くらえ」


 だが、俺はただ待っていると言うことをしない。何を考えているのかもわからないような相手だ。〈アンマグネクス〉を振り上げ、既にメビウスに飛び掛っている。


神聖せんげん[封印の鎖]」


 メビウスから放たれた鎖は、俺を縛った。そして、まるで時間が止まったかのように動けない。飛び上がった状態で、地に着くことも出来ず、ただ、その状態から動けない。やはり、この程度読まれていたか


「……」


 言葉を発することも出来ない。本当に時間が止まってしまったかのようだ。だが、この状態であれば、向こうからも何かをすることは出来ないのではないか? これはまるで、その状態を保存し続けるだけの能力だ。


「さて、この鎖に縛られている間は、こちらからも手を出すことは出来ない。ククッ、理解しているようだな。数人の集合体であるのだから、その程度の知能は当たり前か」


「……」


「さて、話をしていこうか。管理者には時間と空間を掌握する能力……。と言うよりも、権限を持っている。その根源は、一つのものであり、それを分割して管理者に与えられた」


「アタイの空間時間掌握も、メビウスのも、もともとは一つの権限だったって訳だね」


「そう、本来は真に、時間と空間を掌握する権限だ。言いたい事解るな? 好きな空間に、好きな時間に飛ぶ権限では無い。好きなように時間と空間を掌握する権限だ」


「メビウスは、その権限を使ってこの世界を破壊するつもりだったんだよね。だから、前の世界でも同じように、分割された権限を集めたんだ」


「だが、私には時間と空間を掌握する権限を扱う事が出来なかった。それは、この世界の存在全てに架せられている制限のせいだ。〈零の映写機希構〉は自身が破壊させないように先手を打っていた」


「アタイは驚いたよ。てっきりメビウスが破壊したものだと思っていたからね」


「その為、平行して進めていた破壊者の誘導に集中することにし。その結果として〈世界転生システム〉を破壊することに成功した。間違いなく破壊した」


「……」


 そうだ。ロジクマスと話をして行き着いた可能性。〈世界転生システム〉はこの件に関与していない。つまり、俺を含めてここに生きる全ての存在は……。


「ククッ。私もレアルも、全ての存在が記憶の断片のような存在という事だ。貴様と違う点は、複数人の記憶が集合したものか、個人の記憶が集合したものかの違いだ。おそらく、人格を構成するだけの量の記憶が残っていたのだろうな」


 〈世界転生システム〉を失った〈零の映写機希構〉は、残っていた記憶の断片を終結させてこの世界を再現した。そして、その対象は、この世界に生きる存在も例外ではない。


「そうなのだよ。故にエルフェは、こんな事が出来たのだね」


 エルフェの声がした。動けない俺に知る術は無いが、おそらく後ろの通路から来たのだろう。どうやってかは解らない。ドスドスと音を立てながら俺の前に出てきた存在は、名状し難い姿をしている。まさか、これがエルフェなのか? まるで金属の塊のような存在には、女性のパーツがいくつも生えている。その中には、サイクルシステム、アトムビジョン、イフペーストのパーツも存在していた。まさか……


「アンタ、ディレイスクラップの身体を乗っ取ったのか?」


「悪い言い方をすればそうなるのだよ。だがね、エルフェは皆とレアルを倒すと言う約束をしたのだよ。この身体は正式に貸してもらったという事なのだね」


「良くそんな事出来たじゃん」


「簡単な話なのだよ。ディレイスクラップは廃棄された混沌の従者の集合体、ヌルのような記憶の集合体の存在なのだね。その中に、エルフェは入り込んだだけなのだよ。エルフェはレアルの命令を受けないのだね、それはエルフェが創られた存在ではないからなのだよ。命令を受けないエルフェが入り込んだことで、ディレイスクラップの停止命令が解除された訳なのだよ」


 つまり、エルフェは初めからこうなる事を解っていた? ディレイスクラップを呼んだのも、記憶の断片として存在するために殺されたのも、全てここに繋がるという事か。


「それだけではありません!」


「私達も居るわよー」


 ディレイスクラップから飛び降りた2人の存在。ロジクマスと、エメレイア。


「イニシエン様が貴方に希望を託したと言うのなら。わたくし達が味方しない理由がありません」


「そういう事なのよー」


「グリアとロウタには、エルフェがここに来るまでの道の確保をお願いしたのだよ。2人とも、命を賭けて達成してくれたのだね。エルフェが出来る事をしないといけないのだよ。エルフェは、君が真実に至るまでの道を確保するのだよ!」

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