風と風力機
「ワタクシは風力機、サイクルシステムでございます。相手になる方は、貴女でしょうか? カッコ、適当」
「適当と言いながら、風の精霊である私を選ぶんですね。まぁ、良いですけど。それに、知ってます」
「コミュニケーションの一歩は自己紹介でございます。カッコ、確信」
「そうですか」
サイクルシステムは、背中から二本のアームが延びて、その先端にプロペラみたいなものが付いている事以外は特に奇妙な所はありません。ですが、相手は混沌。何をしてくるかは解りません。確か、サイクルシステムの能力は……。
「精霊の直撃は痛すぎるのでございます。なので、ワタクシは流れの中に身を潜めましょう。カッコ、嘲笑。
サイクルシステムは空間に穴を開けると、その裏に隠れてしまいましたね。しかし、非常に不安定な空間の裏側に留まって居られる訳がありません。定期的に戻ってくるはずです。しかし、そうなると長期戦になってしまいます。そうなってしまいますと、グリアから力を供給されてはいますが、それがいつまでも保てるとは思えません。私自身で力を集めたいのですが、この場所は自然との繋がりが遮断されてしまって、力を得ることが出来ないのです。グリアが、どれだけの力を溜め込んでいるのか。グリア頼みになってしまいました。
「さて、どこから出てきますか」
「
私の目の前には、空間の裏側から爆弾が出現していましたが、私は風です。それが爆発する前に回避します。直撃を受けても問題は無いのですが、身体が散ってしまうと、再生に力を使ってしまう為、できる限り回避しなくてはいけません。
「そんな攻撃効きませんよ」
「これならどうでございますか。カッコ、歓喜。
サイクルシステムは、裏の空間からプロペラだけを出すと、強風を作り出しました。私は風である故に、より強い風を受けてしまうと身体が散ってしまう可能性は否定できません。自然の風ならば、そんな心配はしないのですが、これは人工の風。自然の流れを乱す風です。
「しかし、当たらなければ問題ないです。
プロペラの位置を動かして私を追い込もうとしてきますが、機動力なら負けません。三次元に動いて強風を回避しつつ、プロペラを支えているアームに風の刃を放ちます。唯一裏の空間から出てきているサイクルシステムの身体。ダメージを与えられれば良いのですが。
「危なかったのでございます。カッコ、嘘。
風の刃が当たる前に、プロペラを裏の空間に引っ込めてしまいましたか。そして、再度出てきたプロペラは二本、しかし私には直撃しない位置です。これはまさか。
「相殺します!
サイクルシステムは私を中心に竜巻を作るつもりです。何とか魔法で逆回転の竜巻を作ることで相殺しますが、サイクルシステムが裏の空間に居る間は手を出せない。ここままでは、私が消耗してしまいます。
「時間切れでございます。カッコ、ため息」
先に時間切れになったのは、サイクルシステムの方ですね。不安定な空間の中で受けたダメージによって、ボロボロな状態で出てきました。ここからは私が攻める番ですね。
「流れは私に巡ってきましたね。
吹き荒れる風の刃によってサイクルシステムを追いつめていきます。流石にすべてを回避することは難しい、攻撃は当たっていきますが、倒しきれない。
「ワタクシは風力機でございます! 風の流れも、時間の流れも、全ての流れがワタクシのエネルギーでございます! カッコ、爆笑」
表の空間に居る限り、サイクルシステムは再生してしまいます。ダメージによって倒しきる前に、私の時間切れが来てしまうでしょう。上手くいくか解りません、しかし、この方法しかありません。
「これで決めます!
「そんな下級の魔法で何をするつもりでごさいますか。カッコ、苦笑」
創り出した、風球を。サイクルシステムの背中側に向って放ちます。そして、視線が私から離れた瞬間、全力で一気に接近します。
「巡る思考に閉じ込められて絶望しなさい!
風の速度に反応できたとしても、そこから行動できる訳がありません。フローブレインは、思考をループさせて、行動を奪う能力。まるで私のようです。この戦いが終わった後も私は続けるでしょう、愚直な思考を、終わらない流れを……。それでも構いません、私は巡る流れなのですから!
「時間と言う流れを作った存在は、自然から離れてしまった人間でございます。
サイクルシステムにもう少しで手が届く、それなのに、目の前に空いた空間の間に、勢いを殺せず飛び込んでしまった。自然と切り離された、私は、意識が、薄れて。
「命は巡り、大地に還る、大地は育み、命は尚巡る……。私は、消えても、輪廻は、潰えません」
「終わらない流れを利用した永久機関。そんなコンセプトで作られたワタクシでも、流れには逆らえないのでございます。全てを受け入れて、流されてしまった方が楽なのでございます。ですが、消耗品であるワタクシ達に、次は無いのでございます。カッコ、諦観」
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