改心する精霊

「なぁ、お前は世界の正体を知ったらどうするつもりなんだ」


 扉の先は長い廊下、そこを進みながらヌルに質問をする。これは必要な事だ。返答しだいでは俺の仲間が協力してくれないからな。まぁ、それはそれで選択なんだろうけどな。


「グリア? 急にどうしたのよ」


「ギヒャヒャ、これはな、必要な質問なんだよ。さて、ヌル答えろよ」


「……。どうするかは解らない。現状世界について知ってはいないし、俺に何が出来るのかもわからない。ただ、俺は俺の納得する行動をするだろう」


「ギヒャヒャ! まぁ、模範解答だな。精霊はな、基本的に流れに逆らったりはしないんだよ。それが、そういうものであるという事を前提に、何時までも循環する流れを好むんだ。さて、お前は新たな循環を創れるか?」


「そんなこと言われても解らない。所詮は個人だ、大したことは出来ないだろう」


「ギヒャヒャ! それを聞いて安心したよ!」


 大したことなんてしなくて良い、俺が欲しいのは一片のキッカケだ。一片のこのキッカケが、多くの存在の相互作用によって、大きな変化になることを、多くの存在が関わることによって、多くの存在にとって良い方向に向かってくれりゃ良いんだよ。まぁ、大きな変化を怖がってしまうのは、精霊の本能なんだろうな。どんなに強がったって、精霊という分類からは逃げられないんだろうよ。


「ねぇ、この先に大きな部屋があるみたい」


 廊下を進んでいくと、大きな部屋にたどり着いたな。んで、そこには更に前に進むための扉と、3人の障害物がいるな。


「サイクルシステム。アトムビジョン。イフペースト。皆揃いも揃ってどうしたの?」


「ハッ! 出来損ないの出力機が! お前は何やってるんだよ!」


「ワタクシ達が強制されている中でのうのうと良い身分でございますね。カッコ、血涙」


「二人とも黙っててくれない? ここは私が話をつけるから」


 三人の内、一人が前に出る。何か考えでもあるのか? 単純にメビウスとか、レアルの命令に従ってるんなら、俺たちを囲んでしまって集中攻撃すればいいだけだ。


「ギヒャヒャ! なんか作戦でもあんのかよ」


「もちろんよ。そうでなかったら、話なんてしてないで攻撃するわ。とりあえず、私達はヌル以外の制圧が目的だから。ヌル、貴方は今の内に走り抜ければ良いのよ」


「ハッ! ふざけるなよ。なんでそんなこと」


「アトムビジョン。レアルの命令を忘れてないでしょうね?」


「チッ!」


 ヌルと何か取引でもする気か? だとすれば、俺やロウタは邪魔になる可能性がある。だとすれば、ここでの最善は、俺達が抑えておく事だろうな。人数的にはちょうど良いと言いたいが、俺は戦闘には向かないんだけど。まぁ、やれるだけはやるけどな。


「ロウタ! 秘策の方は頼んだぜ! お前らは進みな!」


「……解った。何とか時間を稼いでよ。ヌル、行こう」


 ヌルとロウタは次の部屋に向かって行ったな。後の問題は、目の前のこの三人がそれを見逃してくれるかだ。


「チッ! 良いのかよ、出力機まで行かせちまってよ!」


「一人なら問題ないのでございます。それよりも、何か作戦でもあるのでございましょうか。カッコ、爆笑」


「ギヒャヒャ! もちろんあるに決まってるだろ! それも、とびっきりの奴を二つもなぁ!」


「それなら、私達に倒される前にさっさと見せたほうが良いわよ。貴方一人で抑えられるとは思わないからね」


 そんなこと解ってるんだよ。けどな、俺には時間稼ぎと、決め手になる秘策がある。時間さえ稼いでしまえば俺達の勝ちって訳だ。


「話は聞いていただろ。フロウ、ブレス、協力してもらうぜ!」


 俺の腹の中に閉じ込めていたフロウと、ブレスを開放する。これで3対3って訳だ。なんでフロウとブレスが消滅しないのか。それは俺がエンシェントの代わりに力を供給してるからだ。つまり、俺は精霊というよりは、エンシェントの予備という方が近い存在って訳だ。


「しかし、あの反逆者は……」


「ギヒャヒャ! それなら世界がダメになっていくのを見守り続けるか?」


「クッ……!」


「あたしはさ、あのヌルって奴がここまで来たの凄いと思うよ、頑張ったんだと思うんだ。努力は報われるものなんだよね? それなら、なんか良い方に向かってくれるんじゃない?」


「ギヒャヒャ! どうするんだ? フロウ?」


「……。私は、もう一度選択することにしましょう。あの人間が世界の反逆者かどうかを。そして、それを拒もうとする存在を打ち倒すことにしましょう」


 やっと話がまとまったみたいだな。まぁ、話にけりがつくまで待っててくれるとは、なかなか空気の読める奴等だよな。


「ギヒャヒャ。待たせたな」


「私達は、ヌル以外の余計なものを通さないっていうだけだから、勝手に時間を作ってくれて良かったわよ。まぁ、でも。そろそろ始めるわね」

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