思考する悪魔
「ロジクマスか」
全ての能力を解除して、エメレイアを解放する。そして、ロジクマスと向き合う。
「私はまだ戦えるわよ……!」
「いえ、させません。さぁ、ヌルさん契約をしましょう! わたくしと貴方で1対1で決着をつけましょうか。こちらが負けたらわたくしとエメレイアは一切干渉しないと誓いましょう。しかし、勝てば仲間になってもらいましょう」
言い切ったロジクマスは俺に向って一枚の紙を差し出してきた。これが契約書か、だが安易に受けるわけにはいかない。
「お前とエメレイアだけか」
「そうです。イニシエン様の部下はもうエメレイアとわたくししか居ません。しかし、それこそおかしな話なのですよ。本来〈世界転生システム〉で蘇るのは、管理者と、管理者の力を分離して誕生した生まれもっての従者だけなのですから」
そうか、エメレイアとロジクマスは元人間。管理者の従者になっただけの人間。管理者の力を分けて生まれた従者は管理者の力そのものと言っていいが、ただ力を与えただけの存在を〈世界転生システム〉が、強いては〈零の映写機希構〉が蘇らせる意味がない。言わば、力を与えて勢力を拡大するというのは、バランスを崩すというのと同義なのだから、わざわざそれを引き継ぐ意味が無い!
「つまり〈世界転生システム〉によって生き返ったのではなくて、別の要因によって生き返ったのだとする方が、納得できるのです」
〈世界転生システム〉は散らばった世界を集めたが……。そもそも創り直してなんか出来ていない! だとすれば、転生されてないのだから起動していない……? それなら、管理者だって転生したわけではない……!! それでも生き返ったと言うのは……? まさか
「何か知っている。もしくは、何かに気づいてしまったような顔ですね。だからこそ、わたくしは貴方を仲間にしたいのです! さぁ、契約しましょう! それとも、わたくしとエメレイア同時に相手して勝てると思っているのですか?」
何を企んでいるのかは解らない。しかし、この契約をしなくても戦うことになりそうではあるし、いっそここで決着をつけたほうがいいのかもしれない。エメレイアと戦ったが、かなり余裕だった。同じ元人間なのだから、エメレイアを大きく越える強さではないだろう。
「その条件をのもう」
「契約は完了されました!」
ロジクマスの契約書が宙に浮き、俺の名前が自動的に刻まれる。そして、その場に留まり光を放っている。
「なんなのよー、私を蚊帳の外に追い出すつもりなのー?」
「えぇ、そろそろ本気を出しますので……。さっさと去りなさい」
「……。そこまで言うなら。解ったわ」
それだけいうとエメレイアは去っていった。これで本当にロジクマスとタイマンだ。耳元に一番蚊屋の外なのはわたくしですわと聞こえるが、気にしないでおこう。
「さて、正々堂々とわたくしの戦い方で戦わせて頂きま……」
「先手必勝!
呼び出した〈アンマグネクス〉の重さをほぼ零にし、自身の重さを減らすことで高速移動を可能にする。そして、速攻で接近する。おそらくロジクマスは接近戦を得意とするタイプではない。相手のペースに呑まれる前に終わらせる!
「おっと。
ロジクマスは黒い炎を呼び出す。だが、〈アンマグネクス〉は何でも斬る剣。黒い炎を切り裂くが……。〈アンマグネクス〉が炎によって燃やされ、いや。これは侵食か? 少なくともこの状況はマズイ。こちらに炎が侵食する前に〈アンマグネクス〉を指輪に戻し、再度呼び出す。良かった、炎は消えている。
「厄介な」
「わたくしの炎は何でも燃やすのです。少々危ないですね。
再度放たれる黒炎。少しでも触れるのはマズイ。接近戦に持ち込んで速攻で終わらせたかったが、こうなれば仕方ない。距離を取って回避。黒炎はロジクマスから3メートル程度のところで消えた。
「飛距離は大したこと無いのか?」
「燃やすものが無いとすぐに消えてしまうのが欠点ですね。
ロジクマスと視線が合った瞬間。なにか能力を宣言されたが、何も起こっていない? まぁいい。何でも燃やすのなら炎に変化した所で燃やされてしまいそうだ。そうなれば、遠距離攻撃で様子を見て、隙を見せた瞬間に一気に接近して終わらせよう。
「
俺はロジクマスに火球を放つ。ロジクマスの黒炎と違い、大した効果は無いが、一直線に数百メートルは飛ばすことが出来る。距離的にはこっちが有利だ。
「魔法能力ですか。
ロジクマスは回避する動作さえも見せず、障壁を発生させて身を守る。だが、ギガフレイムの直接的な攻撃力はかなり高いはずだ。完全に防がれる筈は……。
「なんだと」
「マジックバリアは、対魔法に特化した障壁です。その能力が魔法であれば、マジックバリアに対してどんな効果も与える事は出来ませんよ」
ギガフレイムが直撃しても、その障壁に傷一つつける事は出来なかった。だが、マジックバリアが対応しているのは魔法能力のみ。記憶の集合体である俺には多彩な能力がある。
「
氷の蛇を召還する。これでロジクマスを倒せるなんて思っては居ない。マジックバリアを壊すことが出来れば十分だ。
「
呼び出した氷の蛇はただの氷となって動かなくなってしまった。こうなったら強引にでも攻めるしかない。このままでは追い詰めれれてしまいそうだ。
「
風の刃を放つ。だが、バカ正直にぶつけても意味が無い。ロジクマスの手前の地面にぶつけて、飛び散った石で間接的に攻撃する。これならマジックバリアで守ることは出来ない。
「
ロジクマスは通常の障壁で石から身を守るがここまでは計算通り。飛び散ったのは石だけではない。砂埃によって視界が悪くなる。
「
重力を増加させる力場を発生させてロジクマスがその場から動けないようにする。俺自身はエイトグラビティの効果で重力増加を打ち消している為問題ない。そして一気に接近する。砂埃で視界が悪い以上、気づいて黒炎を呼び出したとしても、その黒炎ごと切り裂いてやろう。
「残念でした。
ロジクマスのスキルブレイクが俺を打ち抜いた瞬間。身体が一気に重くなりバランスを崩してしまう。そうか、スキルブレイクが俺のエイトグラビティと、セブングラビティを打ち消したのか!
「さぁ、地獄の業火よ。燃やし尽くしなさい!
「
重力場を解除するが、バランスを崩して倒れた状態では回避できない! 風球を無理やり発生させて自分自身を吹き飛ばす事でなんとか黒炎の範囲内から離脱する。
「これはどうですか?
ロジクマスはマジックバリアで黒炎を閉じ込めた。ボール状の障壁の中で黒炎は燃え続けている。これは、まさか。
「燃やすものがある限り消えないのか」
「そうです。デスブレイズは燃やすものがあれば尽きません。ですが、燃やすものであるマジックバリアは魔法による影響は受けません」
「だから、どうした」
「ですが、マジックバリアは対魔法に特化しすぎてしまった為ちょっとした衝撃でも……。先ほどのような無理やりな接近をされたら割れてしまうかもしれませんね」
「くそ」
あの宙に浮いた黒炎の入ったボールを気にしながら立ち回らないといけないという事か。徐々に追い詰められていく。このままではマズイ、何か打開策を……。
「さて、次は境界を創るという超越能力でも使ってきますか? しかし、境界を設置するという性質上。わたくしのスキルブレイクで突破出来ますね。エメレイアとの戦いは見させて頂きましたよ」
残りは……、逆転出来そうな能力は消滅の光だけだ。だが、エメレイアとの戦いを見ていたという事は、この能力に対しても何らかの対策があると考えた方がいい。だが、はやく決めなければどんどん追いつめれられてしまう。
「さて、チェックメイトです。貴方の全ての策は看破しています」
こうなったら覚悟を決めるしかない。消滅の光は下手に使うと俺自身を消滅させる諸刃の刃だが……。何とか一撃加えるしか……!
「あぁもう! こんな扱いばっかで気に入らないですわ!」
ヘルウインドで無理やり回避した時に吹き飛ばされたのであろうアイムが、ロジクマスの後ろに居て。そして、ロジクマスの足を蹴った。その瞬間、契約書は燃え尽きた。
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