信仰の天使

「そもそも、アイムは協力してくれるのか?」


 秩序とは敵対していたし、そもそもエンシェントを封じたのは俺だ。どう足掻いてもアイムが協力する要素が見当たらない。むしろ、エンシェントの仇だなんだと攻撃されるおそれが。


「協力して差し上げます。その代わり、メビウスを倒していただきますわ」


 アイムがメビウスを倒して欲しいというが、何らかのかかわりがあった様な気がしない。何か考えがあるのだろうか。


「エンシェントを封じた杭なんだけど、メビウスの力が使われてたんだよ。だから、メビウスを倒したら封印も解除されるね」


「そうですわ、今度はわたくしが利用して差し上げますのよ! これでフロウよりもわたくしの方が役に立つと証明できますわね!」


 盛大にばらしてどうするんだこの精霊、やっぱりアホだ。しかし、厄介なことになった。メビウスを倒したらエンシェントが解放されるのか。もしかしたら、ジダイガはメビウスの指令で動いているのか?


「それにしても。メビウスの目的は解るんだけど、何でこんな方法をとるのかが全く解らないよ」


「目的とは?」


「多分だけど。ヌル君を第2の破壊者にしたいんだと思うよ。メビウス本人に世界を壊すことは出来ないんだから〈外部〉に破壊者になってもらわないとね。とは、思うんだけど。なんか見逃してるのかなぁ」


「目的が変わる可能性は?」


「無いね。そんな事ありえない」


 参ったなぁーと言いながら頭を掻くリア。そういえば、右腕が無いな。はじめに会った頃から無かったのか? いや、あの状況だったのだから把握しきれなかったんだろう。それよりも。


「そもそもどうして世界を破壊しようとするんだ」


「あー、うん。それはねー……」


「見つけましたよ。リア・メキア」


 リアが答えようとした直後。扉が開いて入り込んできたのは、糸に繋がれた天使……。嘘だろう、メビウスなのか?


「メビウスなのか?」


「違いますよ。私は信仰の天使、オールグローリアです」


「が、操っている人形だよ。ほら、ヌル君よく見てみなよ」


 よく見てみると、確かにただの人形だ。糸につながれたその姿はそのまま操り人形にしか見えない。今まで見えなかったのか、解らないが、その人形の頭上には人形を操る為の棒が浮いていて、そこから糸が伸びている。


「何故困難に立ち向かおうとするのか。ただただ神を妄信すれば、そんな苦痛から解放されるというのに……。まぁ、いいでしょう、リアさん貴方が邪魔なのです」


「どうしてだい? 僕はヌル君が破壊者になりたいと言うなら止めないよ? 君達神聖の邪魔はしてないと思うんだけど」


「メビウス様は不確定要素になるものは全て排除するようにと、言っていましたので」


「全く、これだから神聖は」


 そんな事よりも。メビウスを封じたというのは嘘だったのか?確かにあの場でメビウスを封じたと……?


「まさか、メビウスを封じたというのは……」


「あの時の事ですか? 確かに私は付き添いであの人と共に居ましたが、なにもメビウス様を封じた等と言ってはいない筈ですよ?」


「なに……!」


「それと糸の話ですか。この人形と糸は同化しているというか、人形の糸をそのまま使っていますからね。糸だけを消すというのは不可能な話ですよ」


確かに嘘は吐いていない。こちらが勘違いしてしまっただけと、そう言われてしまえばそれだけだ。だが、確かにレアルは神聖の管理者が来たと言っていた。嘘を吐けない神聖の代わりにレアルが嘘を吐いて騙したのか?


「混沌と何を共謀しているんだ」


「確かに、私達神聖は嘘を吐けませんが、人の望みを叶える存在ではありませんよ。そういう事は混沌に言ってください」


 待てよ。確かにあの時レアルは俺の言ったことを承諾したはずだ。人の欲望を肯定する存在ならばそれを叶えなくてはいけない筈……。いや、今はオールグローリアをどうにかするべきだ、話によると操る能力を持っている筈だ。操られてしまったら強さとか、そんなものは関係ない。


「とりあえず、去ってくれると助かるが」


「それは出来ませんが……。貴方が去るのは可能です。何故なら、私が命じられたのは不確定要素となりうるリアの鎮圧ですから」


「えぇ? 君にそんな事が出来るのかい? それに、それが君の正しさなのかな? それならさっさと僕を支配してしまえば良かったじゃないか」


「……。私は、迷っているのです。メビウス様に命じられたこと。そして、私達の計画。それは、ヌルさん、貴方に苦渋の決断を迫るものです」


「……。第二の破壊者か」


 今までのことを考えたら、苦渋の決断というのは俺に破壊者として世界を破壊するようにさせるって事だろうな。だが、何故それほどまでに世界の破壊に拘るのか。


「詳しくは言えません。ですが、貴方が真実を探そうとしなければ、こんな苦難が待ち受ける事も無かった筈。ただ神を信じるように、愚直に祈り続けていれば良かったのです」


「それは無理だ」


 無知に神に祈るなんて俺には合わない。それに、この世界には何か秘密があるはずだ。それをどうしても見つけてみたい。ここまで来たんだ、それがなんなのか見つけてやる。


「祈ることによって、安息と平穏を受け取って欲しいのです。神に祈るのも、銅像に祈るのも、人形に祈るのもなんの違いがありましょうか! ただ、私は、全ての人間を救いたいのです! それを拒否されてしまったら、望まれた私達はどうすれば良いのですか!」

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