意外な登場

「メビウスがようやく動き始めたのか」


 今までも何らかの動きがあったのかも知れない。だが、目に見えた動きはこれが初めてだ。メビウスは中立の管理者に会わせたくないのだろうか、だとすれば、アローンクローズとは反する考えだ。何しろ、最初に中立の話を持ちかけたのはあの天使なのだから。


「これだから神聖側は信用できないんだよ。何を考えてるのか全くわからない。ヌル君が中立側に会うのに不都合なんかないと思うんだけどなぁ」


「だが、アローンクローズという天使は仲間かもしれない」


「えぇー?」


 仮面を付けていて表情なんて解るはずも無いのに、ハッキリとわかる胡散臭げな感情。そんなに信用無いのか、勢力が一枚岩では無いと思うのだけど。


「なんにしても、メビウスを説得するか倒すしかない。どこに居るのか解らないか?」


「うーん。メビウスって存在を消すことが得意だから、その気になったらエンシェントでも見つけられないんじゃないかな。それに、メビウスを見つけたとしても十中八九罠だろうし」


 なんてめんどくさい奴だ、そんなんだから神聖側が信用されないんだろう。そういえば、メビウスを探っているといっていた人が……。


「そうだ、イニシエンはメビウスを探っていた筈だ」


「よりによってイニシエンなの? まぁ、何にも情報が無いんだから、藁にも縋る様に尋ねてみるのも良いかもしれないけど」


 邪悪の管理者もこの評価なのか。大丈夫なのか、この世界。管理者の人選ミスっているんじゃないのか。そういえば、中立側に聞いておきたい事があったんだった。


「イニシエンに勧誘を受けているんだが」


「あー、何となく察したよ。おかげで酷い目にあった」


「何の話だ」


「気にしないでよ。そうだね、ヌル君が邪悪側になってしまえば、僕は中立だから調節対象になってしまうね。とりあえず、答えを見つけるまではそのままの方が良いかもしれない」


 やっぱりなのか。中立は4つの勢力の調節みたいな役割なのだろうから、俺がどこかに属してしまったら肩入れをするわけにいかなくなるというわけか。そういえば、イニシエンは俺の事を〈外部〉だと見破っていたみたいだが、どういう事なんだろうか。


「イニシエンには〈外部〉かどうかを見破る力があるのか?」


「管理者には全員に備わっている筈なんだけどねぇ。エンシェントが過剰に反応したのは唐突に〈外部〉の存在が現れたからだしね。そういえば、レアルは何でか知らないけど、この世界のものと〈外部〉を見分けることがとことん苦手みたいだよ。混沌だからなのかな? 見分けがつかないって言ってたね」


「そうなのか?」


「うん。確かにレアルは異質というか、僕が見た感じ……。いや、そんな訳が無い。僕の気のせいだよ、気にしないで」


 リアは頭を振ってさっきまで考えたことを振り払うような動作をしている。何を思ったのかは解らないのだが、おそらく俺にとっては重要なことではないだろう。


「とにかく。今のところはイニシエンに聞くしかないか」


「イニシエンねぇ。こういう時にはあんまり頼りにならないと思うんだけど、まぁいいか。これをもっていきなよ」


 リアがポケットから何かを取り出すとこっちに投げてきた。受け取った感触は水っぽい? 見てみると人型をしている……。アイムじゃないか。何故拳くらいの大きさまで小さくなっているのか、そもそも何故リアが持っているのか、エンシェントが居なくても存在できる事とか、色々聞きたい事はあるが。とりあえず。


「これでどうするつもりなんだ?」


「なんですの! わたくしを投げた挙句にこれ扱いなんて、酷いですわ!」


「一応これは精霊だからね、探知能力には優れてる筈だし、イニシエン程の存在の大きな奴なら見つけられると思って」


「ちょっと! 聞いてますの!」


「なるほど、どうやって捕まえたんだ?」


「無視はやめて欲しいですわ!」


「氷漬けになってたから、何とか存在を保ってたみたいだね。だから、僕が拒絶を施すことで何とか拡散させないようにしたんだよ。まぁ、存在が薄くなってしまっていたから、無理やり固定化しようとしたら小さくなってしまったんだけどね。持ち運びには便利だし、良いんじゃないかな?」


「わたくしを道具扱いとは、無礼ですわ!」


「メビウスを見つけられたら、簡単に話が進むが」


「無理ですわよ。エンシェント様との繋がりが無い以上、わたくしが扱えるのは自然とのつながりだけですわ。隠れたメビウスを見つけるなんてもってのほか、イニシエンでさえ水の無い世界に居るのなら、わたくしには見つけられませんわ」


「らしいよ。本当は僕もメビウスを見つけられたらっていう魂胆で捕まえたんだけどね」


「なんだ。使えないな」


「なんですの! その扱いにはわたくし納得できませんわ!」


 手のひらで怒ったようなしぐさを見せるアイム。だが、怖いはずが無い。あれだけ脅威だった精霊もこうなってしまえば可愛いものだな。

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