中立の代理人

「懐かしい名前だね。今や皆僕の事を竜として呼ぶとしても、堕竜だもの」


 本来僕は白竜で、とっても神々しい姿をしていたんだ。だけど〈零の映写機希構〉に絶対神としての力を与えられて、その後すぐの話だ。破壊者プロキアによって、僕の角は砕かれて、尻尾は千切られて、身体は黒く染め上げられた上、挙句の果てに人間の姿に封じられてしまった。残された僕の翼も、フォトンにあげてしまったから、僕の竜としての名残は、もうこれしかない。僕を中心に、黒い羽が舞っている。これが僕の武器であり、そして、僕の鱗だったものだ。


「メンドクセェ。力を持っただけの若造だろうが」


「間違ってはいないけど、そんなの管理者のシステムが確立された頃から存在している管理者や、君たち真なる従者からしたら皆若造になっちゃうじゃん」


グネデアが乱雑に殴りかかってくるけど、そんなものは当たらない。適度に距離をとりつつ、グネデアの攻撃を避けていく。


「キニイラネェ」


「そんな事言われてもねぇ。僕だって一応は数千の世界を越えた従者ではあるんだよ?」


グネデアが腕を大きく振るう、ジャンプして避け、ついでにグネデアを蹴って、その反動で距離をとる。肝心なグネデアにダメージは無さそうだね。残念。


「そもそも、なんで中立に従者が居やがる。何事にも左右されてはいけない強固な個なんだろ」


「それは、僕が従者というよりは、中立の代理人って立場だからね。必要な時には中立だって動かないといけない、だけど、フォルフルゴートは動かない。だから、その為の僕なんだ」


グネデアは石を拾って投げてくる、だけどそんな直線的な攻撃は当たらない。石を避けながらグネデアから距離をとっていく。流石に接近戦は分が悪いからね。


「必要な時に動かなかったからこうなったんだろうが!」


「それは頭の痛い話だよ。だけど、僕だって選択できる状況では無かったんだ。まぁ、最善は選んだつもりだけどね」


 お互いに動かず様子を見ている。そろそろ、本気で動こうかな。そろそろグネデアも本気を出すはずだ。


「メンドクセェなぁ! これで終わりにしてやるよ。邪悪せんげん[ダークストローム]」


 グネデアの手に黒い棒のようなものが表れ、それを握る。そして、それを振るうと、棒が延びて距離をとっていた僕の所まで来ている。


「これが僕の武器だよ。見せてあげるよ、紛い物ではない竜の力をね! 呪体せんげん[退化の祝音]」


 僕の周囲を漂っていた羽は、変化して黒い鱗となり、集まって僕の身を守る盾となる。グネデアの棒は鱗の盾にぶつかり、弾かれた。


「チッ! 脱力してろよ!」


 だけど、グネデアの棒に触れた鱗は黒い靄のようなものが纏わり付き、その鱗は重くなったかのように落下してしまう。グネデアのあの棒に触れてしまうと、堕落の靄によって脱力してしまうんだ。しかも、棒は伸縮自在に延びる。厄介ではあるんだよ。

 グネデアは一旦棒を縮めると、僕に向って一気に伸ばしてくる。その延長線上から退く


「何者にも侵されない力だ。呪体せんげん[進化の祝音]」


 鱗は羽に戻る。鱗は物理的影響を受けないが、羽はあらゆる効果を受けない。羽に戻した時点で、落下したものもグネデアの効果を打ち消してまた浮く。僕の真横を通り過ぎる棒に羽を纏わり付かせる。もちろん、堕落の靄の効果は受けない。


「ダリィなぁ!」


 グネデアは棒を縮めようとする。グネデアの棒は伸ばせる距離に際限は無いけれど、一度伸ばしたら縮めないといけない。咄嗟に羽に纏わり付かれている部分を左腕で掴み、棒が縮むのと同時に僕も引っ張られ一気に接近する。


「これでも受けなよ! 呪体せんげん[竜化の祝音]」


 僕の右腕に羽が纏わり付くと、それは鱗になり、僕の右腕全体を覆う。そして棒に引っぱられる力に任せ、そのままグネデアに僕の右腕で打ち込む。軽く仰け反った、流石にダメージはあったみたいだね。


「イテェンだよ! この野郎!」


 グネデアは僕の右腕を掴んだ、逃がさないつもりだね。だけど、逃げさせてもらうよ。ヒットアンドアウェイってね。


「痛い目を見るかもね! 呪体せんげん[破化の祝音]」


 僕の右腕に纏っていた鱗が、一気に剥がれ、散弾のように周囲に散らばる。僕の右腕を掴んでいたグネデアの手は血まみれになっている。そして、これによってグネデアの手は離れた。


「ウゼェンだよ! 邪悪せんげん[ダークストローム]」


 グネデアは羽に纏わり付かれている棒を一度消すと、再度創り出した。そして一気に僕に向って伸ばしてくる。


呪体せんげん[退化の祝音]」


 僕の目の前に羽が集まり、それらが鱗になる事で盾になる。棒が鱗の盾に当たり、盾を押していく、それと一緒に僕も押されて再度距離を取る形になる。


「俺は負けねぇ」


「いや、負けてもらうよ。呪体せんげん[進化の祝音]」


 堕落の靄の影響を打ち消すのと同時に、棒に再度羽を付かせて掴む。そして、同じように縮んでいく棒と共に、再度グネデアに接近する。


「何度も喰らうかよ」


 グネデアは棒を持っていない方の腕を振り上げる。カウンター狙いなのか、流石に棒に引っぱられる力も相まってこの攻撃を受けたらただでは済まない。棒を手放して接近を中断する。その瞬間、棒を縮めるのを中断して。


「あぶな……」


邪悪せんげん[ダークストローム]」


 もう片方の手に棒を創り出し、その棒を伸ばしてくる。それと同時に、縮めるのを中断した棒で横に薙ぎ払ってくる。鱗の盾だと片方しか止められない。


中立せんげん[クリアスキル]」


 グネデアの能力を消して、棒を消す。実は僕の中立の能力は使うと約2秒間は動けなくなる。アトムビジョンは発動までタイムラグがあるタイプだったから気にせず使ってたけど。グネデアみたいに戦い慣れた奴だとこの2秒が致命的なことになる。

 棒に引かれグネデアにある程度接近した状態になってしまっていた為に、グネデアに接近されて右腕を掴まれてしまう。どうしよう、竜化の祝音を使った状態じゃないから破化の祝音は使えない。


「今だ! 拳技せんげん[インパクト]」


「うわあぁぁ!?」


 右腕を掴まれた状態で、グネデアの強烈な一撃を直に受けてしまう。結果、右腕が耐え切れず、千切れ、僕の身体は吹っ飛ばされた。


「メンドクセェから、降参したらどうだ?」


「あぁ、参ったねぇ……。ここまで私を愚弄するとは、ねぇ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る