中立の従者

 ヌル君は意識を失ってしまったみたいだね。まぁ、仕方ないことだよ。今、ヌル君は粗雑に組み合わさってしまったパズルのピースを組みなおしているのだからね。あるべきものはあるべき状態に、それが僕の持つ中立の従者としての能力だ。さて、ヌル君を放置するわけにもいかないから、担いでおこう。僕の体躯ではちょっと難しいけど、出来ないことは無いね。


「チッ! 誰だよお前は」


「知らないのかい? 僕のことはそこそこ有名だと思うんだけどね。もしかして、最近作られたばかりのレアルの玩具なのかな?」


「ハッ! 顔を隠しておいて何を言ってるんだよ。それと、私はそこまで新しい存在じゃ無いな」


「あぁ、そうだった。この仮面いろんな事柄を遮断してしまうから仕方ないね」


 この狐の仮面は僕が地上で活動する為に作ったものなんだ。この仮面には認識を阻害することが出来る。それだけ中立は影響力が強すぎるんだよね。仮面を外すと、アトムビジョンの驚く顔が見えた。ドッキリ成功って所かな?


「チッ! 中立の従者様かよ」


「そんな嫌な顔しないでよ。僕は君に何かしたことあったかい?」


「私はな、偽善者が嫌いなんだよ!」


「えぇ、僕が偽善を振りかざした記憶は無いんだけどなぁ」


「ハッ! 私は知ってるぞ。お前が死んだ理由をな!」


 あー、あの時の事かなぁ。僕としては善とかそういうのじゃなくて、ただ単純に後を任せただけなんだけどね。そういえば、フォトンは生き返らなかったんだね。まぁ、あの子は管理者の従者になる事は無かったし、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。


「別に僕は善を語る気は無いよ。ただ、あの後キッチリと物語が終わらずに、こんなにもダラダラと続いているから、気になって出てきただけなんだ」


「ハッ! 知るかよ。私は戦いのために造られたんだ。目的を達成出来ないオーバーエフェクターや、ヒートファンは道具としてすらも失格だ。私は違うぞ、だから相手しろよ。絶対神リア・メキア!」


「それは皮肉のつもりかな? そんな安い挑発には乗らないよ」


 かつて、僕は絶対神とか言って、世界を支えてきた。まぁ、正確に言えば〈零の映写機希構〉に良い様に使われてただけなんだけどね。そのことを掘り返して僕を怒らせたいんだろうけど、もう苦笑いしか出ないよ。所謂黒歴史ってやつかな?


「ハッ! 知らないな。焼き尽くしてやるよ。混沌せんげん[アトムレーザー]」


「だから、無理なんだよね。中立せんげん[クリアバリア]」


 あるべきものはあるべき姿に。アトムビジョンが光線を放つと、僕は障壁で身を包む、その障壁に当たった光線は何事も無かったかのように消えてしまう。理由は簡単だ、能力や権限で引き起こされた現象は、本来のあるべき姿じゃない。事実を歪まさせて引き起こされた現象なのだから、あるべき姿に戻したら消えてしまうのは当たり前の話だよね。


「さっさと死ねよ! 混沌せんげん[アトムボマー]」


「意味無いって、中立せんげん[クリアスキル]」


 更なる攻撃をしようとしてくるけど、本当に意味なんて無いんだ。権限が発動する前に、そのこと自体を消してしまう。そして、何も起こらない。


「チッ! ウザイ奴だな」


「君はもっと戦略的な戦い方を学んだ方が良いと思うよ。これじゃあ、トカゲも焼くことが出来ないね」


「ハッ! 知ったことかよ。混沌せんげん[アトムレーザー]」


「バカの一つ覚えかな? 中立せんげん[クリアスキル]」


 アトムビジョンの能力を打ち消すけど、何か胸の辺りに痛みが……。アトムビジョンの方を見ると、右手に拳銃を持ってた。なるほどね、確かに拳銃で放たれた弾丸はあるべき状態なのだから打ち消せる訳が無い。アトムビジョンの宣言はデコイって事か。障壁にしておけば弾丸も防げたかもしれないのに、その辺は僕のミスだね。まぁ、強いて言えばヌルに当たらなかった事が救いかな。


「アハハハ! これも戦略ってやつだろ?」


「一つ取られたね。参ったなぁ、本気を出さざるをえないかな?」


「ハッ! 中立の管理者の本領は防御だ。そして、お前の絶対神としての能力は支援系だろ? そこまで攻撃能力は高くないはずだ」


「バカにされたもんだなぁ」


 身体が丈夫とは言っても、あんまり出血しすぎると動きが鈍くなってしまう。ちょっとイライラしてきたし、そろそろ本気で相手しても良いかな?


「アハハハ! 私が中立の唯一の従者を仕留めてやるよ!」


「あーあ、もういいや。零に還りなよ」


 あまり時間もかけたくないし、アトムビジョンなら消えてもらっても物語に問題は無さそうだ。武器を取り出そうとした、けど。何者かの気配がした。アトムビジョンの後ろ辺りの空間が割れて、そこから出てきたサイクルシステムに締められている。


「チッ! 邪魔するな! 風力機!」


「勝手なことをしないで欲しいのでございます。カッコ、困惑」


「イフペーストが良くて何で私がダメなんだ!」


「それは手加減が出来ないからでございます。カッコ、呆れ」


 なんだかんだ問答を繰り返して、サイクルシステムはアトムビジョンを空間の裂け目に放り込んだ。そして、僕にお辞儀をすると自身も帰っていった。


「うん。まぁ、良いんだけどね」


 何となく解せないと思うのは仕方ないよね……。このイライラをぶつける相手も居なくなってしまったし、どうしようか。傷は治りかけているけど、再生能力はエンシェントには勝てないね。そういえば、エンシェントの状態はどうなってるんだろう。行ってみようか。

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