策謀の悪魔

 その後、ゲートを使い知っている世界を巡ってきた。情報収集と記憶の断片を探す為だ。だが、情報なんてものは自分ひとりでは集めようが無いのは解っていたが、記憶の断片さえ一つも見つからない。ちゃんと探索できていないのは〈プロウス〉と〈イズンプ〉だけだ。〈プロウス〉に関しては言う必要が無いだろう、流石に火山地帯を探索したくは無い。〈イズンプ〉は沼地であったが、ここはヤバイ。変な匂いがするうえに、なんか調子が狂うのだ。毒のようなものが湧き出ているのかも知れない。


「参った。八方塞だ」


 〈ユアタウ〉にある家に入り込み、椅子に座って休憩している。いつ襲われるのか解らないのだから、スタミナを維持するのは大切だ。いざ逃げようとしても疲れて動けませんでは、死んでも死に切れない。

 そうだ、この村のどっかに布は無いだろうか。それでマスクを造ればある程度は〈イズンプ〉でも活動できるかも知れない。この家にはマスクに出来そうな布が無かったので、他の家を探索しようと、外に出るために扉を開けると、執事のような男。ロジクマスが立っていた。


「エメレイア、ここに居ましたよ」


「えー、ちょっとまってよー」


 エメレイアも来てしまった。例え1人だとしても、どうにもならない相手だろうというのは理解できる。それが二人となると、どうするべきか。


「何か用か」


「ええ、本日勧誘に来ました。わたくし達の仲間になっていただけませんか」


「断る」


「何故でしょう」


「自分には自分の目的があるからだ」


「なるほど、しかしですね。わたくし達悪魔というのは大きな行動力を持っているのですよ。貴方1人で何かを成すと言うのは非常に困難ではないでしょうか。ですが、わたくし達が協力し合えば大体のことは成せると思いますよ。もちろん、嘘ではないですとも。こちらの書類に約束事を書き込めばそれは契約完了となりまして……」


「ねぇ、殴って気絶させて連れて行けば早いんじゃないー?」


「エメレイア黙りなさい! 申し訳ありません。えぇとですね、こちらの書類に書き込んでいただいた事柄は強制力を持つのです、ですので安心していただけると思っております。記入にのさいに、少々細かい説明等をさせていただきますので、現状はそんなものだと理解……」


「私飽きたわよー」


「黙りなさい!!」


 なんだこのコントは。ロジクマスがなにやら紙を取り出して説明しているが、これがメビウスの言う悪魔を縛る約束というものなのだろう。なんだか変な押し売りを受けている気分だ。とりあえず、聞き流しておこう。


「まぁ、そんな訳ですので。とりあえず、貴方の目的というものを教えていただけますか?」


「中立の管理者に会うことだ」


 ロジクマスの動きがカチンと固まった。察したのだろう、自分が仲間にならない理由の一つを。何らかの派閥に入ってしまい、中立の助力を請えなくなるのは非常に困る。


「では、ですね。この契約書にですね、中立の管理者に会うという目的を達したら仲間になると書いて頂けませんか? その代わり、わたくし達悪魔はその目的を達せるように最大限助力いたしますので、どうでしょうか」


「いや、止めておこう」


 下手にそういう事をするとどこに落とし穴があるか解らない。強制力を持つというのだから安易に決めてしまってからでは遅いんだ。


「この約束による強制力が気になるのですか? では、条件を決めましょう。この条件が守られない場合この約束は無効となるという事が出来るので……」


「めんどくさいわねぇー、初めからこうしてれば良いのよ。魔法せんげん[クエイク]」


「エメレイア! 勝手なことを!」


拳技せんげん[インパクト]」


 エメレイアの拳が迫るが、地面が揺れて立っていられない。こんな所で……。


「いい加減にしなさい!」


 ロジクマスがエメレイアの腕を掴み、そのまま背負い投げで吹っ飛ばす。大丈夫なのか? いや、エメレイアではなくてロジクマス。エメレイアの腕を掴んだ時に聞いてはいけない音が聞こえたような。


「なんなんですか本当に。力を上手く逸らした筈なのに、腕の骨が明らかにやられてるじゃないですか……!」


「死ぬところだったんだが。悪魔相手にこれで2回目だ。グネデアって奴にもやられそうになった」


「うっ……。申し訳ありません。これだから脳筋は……!仕方ありません、出直すことにします。エメレイア! 一旦戻りますよ!」


「もう来るな」


 こっちは死に掛けたんだ。本当にもう勘弁してくれ。

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