情報の提供

「話を聞いてくれる気になった礼だ。これをやろう」


「おっと」


 ジダイガは巨大な剣を軽々しく投げてよこした。受け取ってみると、大きさのわりに軽いと言う以上に、重さを感じられない。この剣も記憶の断片で、指輪となったのだが、大きいだけのこの剣は何かの役に立つのだろうか。


「情報の共有とは言ったが、正確には情報の提供だ。貴様が勘違いしている可能性があるからな。まず、私はメビウスの拘束を解除してはいない」


「つまり、レアルとの協力体制では無いという事か」


 これだけを聞くとレアルと協力している訳では無いと読み取る事は出来る。だが、何らかの意図によってそう思い込ませたいという思考があるのかも知れない。


「さて、メビウスが脅威となる要素だが」


「待て、レアルと協力体制にあるのか」


 しっかりと聞いておかなければならない。信用できるとは限らないのだから、どこで足元をすくわれるのか解らない。警戒はしておくべきだ。


「やれやれ、先ず前提として。確かに私は神聖の世界を壊そうとするその思想、大いに賛成だ。だが、神聖にも混沌にも世界を壊す能力も、方法も無い。そして、第2の破壊者を生み出す方法さえも無い」


 神聖は世界を壊す方法を模索していたが、この世界に住む者全員にかけられた制限のようなものによって妨げられてしまった。だが、破壊者と呼ばれる者は〈外部〉としての要素を受け継いだ人間で、制限が存在していなかった。そのために、何らかの方法でシステムから外れた行動をしてしまったせいで、世界のシステムを無視できるようになってしまったという話のはず。だとすれば、〈外部〉である事と、システムから外れた行動をすることがキーとなっているのか。


「〈外部〉から来た人間が居ないからか」


「それだけでは無い。破壊者の行ったシステムから外れた行動とは、本来不可侵で、完璧である筈の世界にダメージを与えてしまったことが原因だ。ククッ、解るだろ」


「既にこの世界は完璧とは言い難い状態だな」


「その通りだ。そして、〈零の映写機希構〉自体が2人目の破壊者を生み出さないように対策しているだろう。つまり、私達に成せるべきことは何も無い」


「なるほどな。他に方法があったりしないのか」


「あれば既に実行している」


 神聖は世界を滅ぼす方法を完全に失っているという事なのか。だとすれば、一体メビウスとレアルは何をしているのだろうか。


「レアルとメビウスは一体何がしたかったんだ」


「貴様という存在を観測し、世界を滅ぼす足がかりにならないか考えていたのだろうな」


 だから、レアルは自分から目を離したくなかったのか。その可能性を信じたからエンシェントという障害を排除して、自分という可能性を残したかった。エルフェが居なかったらそのまま利用されていた可能性がある。感謝だ。


「私達神聖は善性の存在という枷があるように。混沌は機械、使われる者としての枷がある。秩序には自然に生き自然の一部という枷がある。では、邪悪には、善悪の概念が無く、自分の認めた相手にしか従わないという奴等には、約束という枷がある。だが、この約束というのはお互いを縛る枷だ」


「下手に悪魔相手に同意すると危険だという事か」


「そうだ。下手すると悪魔に協力することを強要される可能性がある。この世界には、力に対して枷を嵌めるという性質がある。ククッ、まぁ、私の見る限り平等では無さそうだがな」


「管理者を縛る枷をいうのは強力と言いたいのか」


「そうだ。管理者の枷は特に強制力が強い。その強制力で縛ってしまう約束というものがどれほど厄介なものか理解しただろう」


 ちょっとした出来心でも、一度悪魔の言葉に同意してしまえばそれは必ず達成しなくてはいけない事柄になるという事か。真実を見つけるという目的の障害にしかならないな。改めて注意するようにしよう。


「後は、そうだな。中立は中立故に、貴様が邪悪側についてしまうと、協力してはくれなくなるだろうな。貴様の現状の目的は中立の管理者に会うことなのだろう?」


 アローンクローズにでも聞いたのか。確かに中立なのだから何かに偏る事は許させないのだろう。確か、中立は何かに加担することは無いと聞いた気がする。



「では、私はやることがあるのでな」


 ジダイガは自分に背を向け去ろうとしている。いや、最後に聞くことがある。


「何故、協力してくれるんだ」


「ククッ、簡単な話だ。貴様にはこの世界の真実を知ってもらいたい。そして、判断してもらいたいのだ。この世界が本当に維持すべき世界なのか、滅ぼしてしまった方がいい害悪なのか、選ぶといい。貴様が進む道を」



 ジダイガはそれだけいうと去ってしまった。この世界が本当に維持すべき世界なのか、滅ぼしてしまった方がいい害悪なのか、か……。いったいこの世界に何があるというんだ。そこまで言わせるほどの真実があるのだろうか。それでも、それを探し続けるつもりだ。

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