一難去って

「何故、エンシェントを封印したのですか」


 ロウタは〈ショートナイフ〉をぶんどってどこかに行ってしまった。残されたのは自分、ロジクマス、エメレイア。しかし、ロジクマスは何か思いがあるのか、そんな事を聞いてきた。


「エンシェントを倒してしまえば、世界が形を保てないのだろう」


「何を言っているのですか。力を失った管理者に、世界をまとめるだけの影響力は無いと思いますが。そもそも、封印してしまえば同じことかと」


「何?」


 そうか、よく考えてみれば、封印した時点で世界に影響できる程の力があるはずが無い。それなら何故、ジダイガは自分にエンシェントを封印するように仕向けたのか。


「何悪魔に唆されてるの? うん、知ってるよ。お話してただけなんだよね」


 何者かに肩を叩かれる、この声は。アローンクローズ。久しぶりに聞いたな。


「えー、なんで天使がここにようなのー。私と喧嘩したい?」


「エメレイア。黙っていてください。自己完結の天使。こんな所に何のようですか」


「悪魔になんて用は無いんだよ。うん、知ってるよ。僕の目的は君達じゃないって、理解してるんだよね。そうそう、本題行こうかな。確か、ヌルだっけ? 確かそうだよね、うん。僕の情報が間違っていなければあっている筈なんだ」


 アローンクローズが自己完結の天使か、確かにその通りだ。そんなことよりも、本題が自分の名前の確認では無いだろうに、こちらも聞きたい事があるのだから早くしてほしい。


「本題とはなんだ」


「ごめんね。わざと話を伸ばしてる訳では無いんだ。いや、嘘なんだけどね。まぁ、そんな事はどうでも良いんだよ。君は僕に聞きたいんだよね、知ってるよ。だから、僕は答えてあげようと思うわけだよ。とっても良心的でしょ? そうでもないか、僕に良心なんて無いからね。うん、知ってた」


 なんてめんどくさい奴だ。エメレイアが見るからにイライラしてきている。ロジクマスは表面には出していないけれど。おそらく、自分と同じ気もちではないだろうか。


「胡散臭いですね。ヌルさん、こんなものの話を聞いてはいけませんよ」


「失礼だなぁ、僕ら天使は嘘をつくことができないのは知ってるでしょ。うん、解ってるはずなんだ。それでも信用できないかな、出来ないんだろうね。確かに嘘はつけなくても誤魔化したりは出来るからね、でもさ、ナチュラルに嘘をつく事の出来る悪魔よりかは良いと思うんだよ。そもそもね」


「いい加減にしてくれ」


 話がいつまで経っても進まない。確かに今までの会話に気になる事が無いという訳ではないのだが、それ以上に知っておきたい事がある。


「そろそろ、イライラしてきたんだね。うん、知ってる。だから君の知りたいことに答えようかな。何を聞いてくるんだい? メビウスの行方とジダイガについてか、そう言われると思ったよ。まぁ、言われて無いんだけどね。メビウスならレアルと一緒にどっか行っちゃったよ。どこに行ったかはわかんないや。ジダイガは確かに神聖側にそんな名前使ってる奴が居るね。どこに居るのかは知らないけど。こんな所かな。なんで知りたいことが解ったのかって? 一応、僕も神聖側ではあるから情報は来るし、君の状況を考えると知りたいんだろうなぁって思ったからなんだ。どう、合ってた? うん、知ってるよ。合ってたんだよね」


「話が長い」


「ごめんね。これは僕の性質なんだ。嘘だけどね。そうそう、僕が軽い嘘をつけるのはね、ただの冗談として処理されてるからなんだ。とは言っても、すぐにばらさないといけないから本当の意味で嘘をつくことは出来ないんだよね」


 長い、話が長すぎる。嫌がらせなのだろうか。もう一つ聞いておきたい事があるというのに。無理やりにでもきりだすか、これで天使が嘘をつけないという前提がなくなるかも知れない。だからこそ、こうやって誤魔化そうとしているのか。


「天使は嘘をつけないというのは本当なのか。例外は無いのか」


「うんうん、例外は無いよ。天使は嘘をつくことは出来ないね」


「それなら、何故ジダイガは世界の崩壊を守る為にエンシェントを封印するように伝えたのか」


「えー? じゃあ、聞くけど。本当にジダイガって人は、世界が崩壊するからエンシェントを倒さないで封印するように言ったの?」


 思い返す、メビウスは。この不安定は世界は。安定化を計るエンシェントが倒されてしまえば。とだけしか言っていない。確かに、世界が崩壊するからエンシェントを倒さないで封印するようにとは言っていなかったな。こちらが勝手に勘違いしただけ、だが、勘違いさせるように言っているようにしか感じない。


「確かに明言はしていなかった」


「倒してしまえば良いのに、わざわざ封印する天使の思惑がわからないんですよ。どう、説明するつもりですか」


「天使は合理主義だからね。倒せなかった場合も考えたんじゃないの? それに、どうしてそんなに倒すことに拘るんだよ。そっちこそなんか企んでるんじゃないの?」


 確かに、封印して済むのなら倒す必要も無いとも思える。どちらの言い分にも間違いがあるようには思えない。天使側が異様に不審だという事を除けば。


「あー、もう! めんどくさいわねー! こんなの倒しちゃえば良いじゃない! 拳技せんげん[インパクト]」


 エメレイアはアローンクローズの前に自分が居るというのに、そのまま拳を向けて。思い切り後ろに引っぱられて事なきを得る。危なかった。


「危なかったね。僕が後ろに引っぱらなかったら、ミンチになってたよ。これだから悪魔は暴力的で困るよね。こんなんだから情報だって伝えられないんだよ。ヌルにだけ伝えておきたいことがあるんだ。だから、この場所から移動するよ。ゲート起動〈ロンハイズ〉」


「待ちなさい」


 ロジクマスが慌てて止めようとするが、アローンクローズが鍵のようなものを掲げると、目の前に扉のようなものが現れて、それに吸い込まれてしまった。そして、気がつくと、荒野にアローンクローズと立っていた。


「それじゃ、君にだけ伝えておきたい事を伝えるね」

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