清き水の精霊

「先手必勝。秘学せんげん[キメラルール]」


 〈ショートナイフ〉を呼び出し、念のため境目を曖昧にする能力を使ってみるが、効果は無さそうだ。風や熱といった拡散しやすいものではないのだから仕方ないか。


「何をしたのですか? 痛くも痒くもありませんわ。魔法せんげん[ウォータカッター]」


 アイムは腕を振るい、水の刃を放つ。それを余裕をもってかわすが、一撃でも当たれば胴体が分かれてしまうほどの威力はありそうだ。当たる訳には行かないな。


「ボクも居るよ。これはどうかな!」


 ロウタは握り拳くらいの大きさのものを板から取り出すと、アイムに投げつけた。それは爆発するとアイムの身体の一部を吹き飛ばすが、水が集まるように、飛び散った身体が集まって元に戻ってしまった。


「わたくしは水ですから、そんな攻撃効きませんわよ」


 アイムはいい気になって笑っている。これは、フロウと違ってかなり慢心しやすい性格なのか。よし、それなら良い事を思いついた。


「ロウタ、明らかに無意味な攻撃を繰り返してくれ」


「え、まぁ、ボクの攻撃は効かないと思うけど。手榴弾で吹き飛ばせると単純に考えたのは良くなかったのは解ったから、その言い方は酷いよ」


「何を話していますの? 降参するなら今の内ですわよ」


「頼む」


「もう、解ったよ」


 ロウタは板から今度は銃に似た何かの機械を取り出した。ロウタは機械をアイムに向ける、何をする気だろうか。機械から火が吹き出た。そういう機械か。


「わたくしを蒸発させようとでも考えていますの? 猿並みの知恵ですわね。魔法せんげん[ウォータプレス]」


 アイムは水流を呼び出し、ロウタの放った火を押し返してしまう。アイムがロウタの方を見ている間に、自分はアイムに接近して〈アンマグネクス〉を呼び出す。


「今だ、くらえ」


 振り下ろす。何でも切り裂く〈アンマグネクス〉でアイムを縦に真っ二つにするが、アイムは何事も無かったかのようにくっついて再生してしまう。この武器でもやはりダメか。


「ですから、わたくしに攻撃なんて無意味ですわ」


「こちらにはもう手が無い」


「ふふ、わたくしは最強ですから。本気をだせばフロウにも負けませんのよ」


 ロウタの方をちらりと見ると、なんとも言えない表情をしている。自分が何をしようとしているのか察したのだろうか、知らないが。


「フロウよりも強いな」


「そうですわよ。ブレスもエイスも見る目が無いんですもの、わたくしこそが最強だというのに」


 こっそりと〈氷結の弓〉を準備している。アイムは話に夢中なのか、自分に酔っているのか、全く気がついていない。もしかしたら、フロウはもちろん、ブレスの方が強敵だったかもしれないな。


「そうだと思っていた」


「貴方は見る目がありますわね。本来ならわたくしはフロウよりも上のはずなのですわ」


 矢を生成する。本当にこの精霊には危機感というものが無い。これだけ強力な再生能力を持っていれば仕方ないのかも知れないが、それでも酷すぎるというものだ。


「お前は、今までの精霊の中で一番弱いな」


「え?」


 氷の矢を放つ、アイムの身体は突き刺さった所から凍っていく。相手は完全に油断しているのだからすぐに対策するという事が出来るわけが無い。このまま全身凍らせてしまえば、何も出来ないはずだ。


「こんなもの無意味……? え、ちょ、ちょっと待ってください!」


 待つわけが無い。このチャンスを逃したら勝ち目が見当たらないのだから。アイムが冷静さを取り戻す前に、どんどん矢を放ち氷漬けにしていく。


「ボクはなんだか情けなくなってくるよ」


 アイムは完全に凍りついた。これで邪魔されずにエンシェントに立ち向かうことが出来る。エンシェントさえ倒してしまえば精霊は無力になる筈だ。


「そんな事よりも、加勢しに行こう」


「うん。わかったけど、解ってるけど」


 ロウタは何となく納得いかないみたいだが、これは弱者の戦い方なんだ。強い相手と戦う時は、弱点を見分けて、そこを狙わないと勝ち目がないのだから。


「ロジクマスとエメレイアの様子は」

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