秩序の管理者

 よく解らない空間に漂ってはいるが、外側からの声は聞こえてくる。やる事も無いので、とりあえず耳を済ませて話を聞いておく。


「ボクはエンシェントの所行くけど、どうするの」


「俺はこの傷だ、流石に戦うことはできねぇし。俺だとそもそもエンシェントに傷一つ付けられない」


「じゃあ、傷が回復したら。〈イズンプ〉まで来て」


「ギヒャヒャ。なんか策でもあるのか?」


「ちょっと、保険みたいなものかな」


「とりあえず、解ったよ」


 それから、しばらく経つと。何かに引っぱられる感覚。エンシェントの所にたどり着いたのか、引かれる感覚に身を任せると、巨大な木のある草原に来ていた。


「ここにエンシェントが居るのか」


「うん、居るよ。援軍はそろそろ来ると思うんだけど」


 どこに居るんだ。見渡しても、草原と巨大な木しかない。エンシェントらしき存在はどこにも見当たらない。


「我、秩序の管理者。エンシェント。永劫に世界を守護する者」


 頭に響くように女性の声がするが、どこに居る。どこかに隠れているのか。


「エンシェントはそこの大きな木だよ」


 この木が秩序の管理者なのか? 他の管理者は皆人の姿をしていたからこれは想定外だ。確かに、管理者は人の力を明らかに超越しているのだから、人の姿をしているとは限らないか。


「汝に問う。何故、我の願いを拒む」


「精霊にも言ったが、命が繋がっていると言われたとしても。自分という個がある限り受け入れる事はできない」


 死んでくれと言われて死ぬような者は居ない。少なくとも、正常な思考能力を持っていればそんな事考えないだろう。自分は受け入れられない。


「汝、自然を憎むか。理不尽と呪うか。故に人間は自然の理から脱するのだろう。自然は憎む、理不尽と呪う。故に自然は理不尽に襲うだろう」


「それでも、人は抗う」


 〈氷結の弓〉を呼び出し、氷の矢を発生させる。矢の先端にジダイガに渡された杭を埋め込む。効果があるかは解らないが、取り合えず試す分には大丈夫だろう。そして、放ち。エンシェントに命中した。


「把握。我力を分散、一定以上の力を失いし時、封印される。故に無意味。我等は同体、力をも共有」


 エンシェントから沢山の羽の生えた光る小人が出てきた。この小人とも力を共有しているというのか、これが共生と共有を扱う秩序の管理者。


「力を共有することで、総合的に増幅する力だよ。あの妖精を倒さないとダメみたいだね」


「現状呼び出せる者を呼び出そう。目を覚ませ、精霊アイム」


 エンシェントは現状を突破する為に力を貯めるよりも、現状呼び出せる精霊を目覚めさせる事にしたようだ。呼び出された精霊の姿は、まるで水のように透き通っている。こちらは自分とロウタ、向こうはエンシェントとアイム。人数的には同等だが、能力の差が大きすぎる。


「ボク言ったはずだよ、援軍を呼んでるってね」


 空間にひび割れが現れた、これはもしかして……。イニシエンかと思ったが、現れたのは、黒い服を着た男性と女性。だが、その見た目は2人とも悪魔のような尻尾が付いている。女性の方にいたっては、翼まで付いている。


「ロジクマスと、エメレイアだっけ? 遅いよ」


「申し訳ありません。少々イニシエン様の説得に時間がかかりまして。イニシエン様にはメビウスの居場所を探ってもらいたかったのですが、こちらの方へ来たがってしまいましてね」


「ロジクマス、長々と会話はいいからさー。さっさと戦おうよー。秩序の管理者と戦えるなんて超ラッキーじゃんー」


「エメレイア、少しは緊張感をもちなさい」


 男性の方はロジクマス。女性の方はエメレイアという名前なのか。神聖の従者が天使なら、邪悪側の従者は悪魔といったところか。


「ボクたちは精霊を抑えるから、それまでエンシェントの力を削いでおいてくれると助かるな」


「まぁ、いいでしょう。悪魔の力を見せ付けて差し上げますよ」


 2人はエンシェントの方へ向っていった。自分とロウタでこのアイムをどうにかすればいいのか。邪悪側は自分を仲間に引き込みたいらしい為、協力してくれるのだろう。


「わたくしは、第5位。清き水の精霊アイムですわ。情けないフロウと違いまして、わたくしは本気で行きますわよ」


 やはり水の精霊だったか。おそらくブレスやフロウと同じで、水の性質を持っているのだろう。厄介だが、ここまで来て退く訳にはいかない。

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