精霊の結末
「フロウ。これで終わりにしよう」
「何……! 私のフローブレインをどうやって!?」
「ギヒャヒャ。信じてたぜ」
エルフェの武器〈ショートナイフ〉を取り出す。確かに、自分はこの能力を使えるようだ。境目を曖昧にする能力を。未だに動揺しているフロウにナイフを向け。
「曖昧になる事で繋がりを得た研究者の力。
フロウと、その周囲の風の境目を曖昧にする。ただでさえ、拡散しやすい風なのだから、境目を曖昧にされてしまえば、自分と言うものを留め難くなる。
「くっ……! なんですかこれは。力が、私が拡散してしまう」
フロウの姿が薄くなっていく、空中に浮いた状態でバタバタ動いているが、まともに動くことさえも出来ないようだ。
「ギヒャヒャ。ンジャ、
「グリア止めなさい!」
フロウの声も聞かず、グリアはフロウを飲み込んだ。やっと、終わったんだ。実際には何も終わってはいないのだが、それでも今まで脅威となっていた存在が居なくなったのだから、多少は気を抜きたいものだ。
そういえば、ふとグリアの腹部に目がいく、確かに今は所々切り裂かれ、血だらけになっていて心配という考えもあるのだが、それ以上にその膨れた腹部が大丈夫なのかと思ってしまう。
「その腹、異様に大きくなっているが。大丈夫なのか」
「ギヒャヒャ。オモシレー事言うな。俺は大丈夫だぜ」
「いや、明らかに不自然だが」
「というかさー、女性に腹がデケェとかいうか? ふつー」
「は?」
「ギヒャヒャ。俺は一応肉体的には女性だぜ?」
唯一見える口元を歪ませて笑っている。嘘だろ、確かに声は中性的でどちらともとれるが、その言動で解る筈が無い。衝撃だ、衝撃的過ぎる。
「って、そうじゃない」
「どうしたんだ」
とりあえずグリアの事は置いておいて。〈ユアタウ〉に戻りメビウスがどうなっているか確認しないとならない。もうすでにレアルが助け出してしまっている可能性もある。いや、ジダイガという男が共謀していれば確実だ。それでも、確認はしなければ。
「ユアタウに戻らないと。そこにメビウスが封じられている、だがレアルがメビウスを助け出すかもしれない」
「メビウスが封じられるだって、そんな事があるのかよ」
「とにかく、ユアタウに行く方法は」
「俺は従者に過ぎないから、他人を転移出来ないけど。抜け道があるんだよ」
「教えてくれ」
世界を破壊するというメビウスがどうなっているのか、確認しておかなければ対策を考えるも何も無い、なんとしてもユアタウに行かなければ。
「お前が俺の腹の中に入って、んで、転移するというわけだ」
「おい、待て。それは流石に」
「あ、見つけた。どう、フロウは倒せた?」
急に後ろから声をかけられ、振り向くとロウタが立っていた。どうしてここに、それにフロウを倒せたか聞いてきている。レアルの差し金という考えも出来る。
「何故フロウを倒せたか聞くんだ」
「エルフェから聞いていたからね。どうせ倒したんでしょ、それならさっさとエンシェントの所行くよ。援軍呼んどいたから」
「その前にユアタウに行かなければ」
「ユアタウ? なんであんな所に用があるの。ここに来る途中で寄ったけど、誰も居なかったよ」
「本当か?」
「なんでボクがそんな嘘つかないといけないんだよ」
ロウタは困惑しているようにしか見えない。本当にわかっていないのか。
「レアルがメビウスと組んでいる事は」
「やっぱりそうなんだ。だって、ボクとエルフェで作戦考えたんだもん。いまエルフェと同化してるんでしょ、心の中にでも話しかけたら答えてくれるんじゃないの?」
言われた通り、心の中に問いかけてみると、うっすらと答えが返ってきた。どうやら、考えたのは殆どエルフェみたいだが、協力者であることは間違いないようだ。
「すまない。確認はとれた」
「別にいいよ。レアルを懲らしめることが出来ればボクはいいんだもん。それよりも、早くエンシェントのとこ行くよ」
「どうやって行くんだ」
従者は他人を転移出来ない。流石にグリアの腹に入るのは勘弁して欲しい。
「ギヒャヒャ、言っとくけど、あの話は冗談だ。まぁ、お前は記憶の断片の集まりって事だから、分解すりゃ入るかも知れないけどな!」
「そんな冗談止めてくれ」
「なんの話なの。それよりも、ボクには方法があるんだよ」
ロウタは草むらの方に歩いていくと、そこに隠していたのか大きな板のようなものを拾って持ってきた。表面は真っ暗だ。
「ちょっと待って、今タブレットの電源入れるから」
ロウタは板を弄ると、光り始めた。なんか色々な映像が映っている。なにかの道具なのだろうか
「ボクは電脳と現実の境界を繋ぐ、出力機オーバーエフェクター。映像は電脳でありながらも、どこかで撮った現実でもあるんだ。それなら、それは電脳でありながらも現実って事。それがボクなんだ」
「どうすればいいんだ」
ロウタの言っている事がイマイチ理解出来ない。現実以外の場所に繋ぐ能力という事だろうか。
「このタブレットの中は、電脳でありながら現実にしといたから。この中に入ってもらえば、ボクが運ぶってこと」
その板に触れると、水面のように指が入っていった。驚いて指を引っ込めてしまう。そんな事を繰り返していたら。
「もう、じれったいな!」
ロウタは板を振り上げ、自分の頭に振り下ろした。そして、いつの間にかチカチカ光る謎の空間に漂っていた。
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