混沌の従者達

「ごめんなー、フロウの奴速すぎて見失ったわ」


「グリアは?」


 グリアはレアルを追って森の中に入っていった筈だ。もしかしたら行き違いになったんだろうか、それなら下手に動かない方がいい。


「グリア? アタイは知らないよ」


「レアルを追って森の中に入っていった」


「そうかい、それならここで待っていようか」


 ぼーっとこの場所で待ち続ける。どれだけの時間が経ったのだろうか。時計と言ったものが無いので解らない。レアルの腕時計を見てみるが、その全てがめちゃくちゃに動いている為に参考にならない。

 そういえば、気になる事がある。この場所に来てかなり時間が経っている筈なのに。日が落ちた気配が無い。更に言うと、上を見上げても光源となりうるものが見当たらない。


「時間の概念ってどうなっているんだ」


「ここは世界の断片に過ぎないって言っただろ、それは4次元的にも断片なんだよ。そのせいでアタイの能力が大幅に制限されてるんだけどな」


 なるほど、時間の経過は存在しないという事か。その場所その場所で固定された時間でしかないという訳か。その割には〈プロウス〉では噴火するというし、本当に曖昧だ。


「能力の制限とは」


「管理者には空間だけじゃない、時間を管理する能力もあったんだ。だけどな、時間という概念の損傷が酷すぎて時間に手を出せなくなった。あ、そういえば。アンタが普通の人間だったらこの歪んだ時間に耐えられず身体が崩壊したりしてたかも」


 今の自分は記憶という時間の概念を直接受ける存在では無いから大丈夫ということか。もしかして、レアルは色々と抜けているのでは。


「レアルが従者を呼んで探索とか出来たらいいのだが」


「うーん。アタイに従順なのはイフペーストぐらいだもんなー。後はサイクルシステムぐらいかな、でもアイツはなにかとつっかかってくるし。アンリペアラーは確かに従順だけど、あまり呼びたくないな。アタイに反抗的なヒートファンも連れてくるだろうから」


 レアルがそう言った瞬間。近くの草むらから2つの人影が飛び出してきた。まさか、噂をすればということなのだろうか。


「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんでございます。ワタクシ、風力機サイクルシステム参上でございます」


「私、原子炉のアトムビジョンも来たぜ」


 サイクルシステムはメイド服を着てまさに従者といった様子だが、背中からアームのようなものが飛び出している。アトムビジョンに至っては、動きやすい軽装だが、左腕が火器となっていて、更に棒のようなものが何本も突き刺さっている。


「アンタら何しに来たんだよ」


「ハッ! 知れたこと、私と戦えよ」


「従者に反逆されるとは、ワタクシ同情するのでございます。カッコ、ザマァ」


 アトムビジョンはレアルに火器となっている左腕を向ける。だが、レアルは焦った様子を全く見せない。


「創造物が創造者に反逆できる訳無いだろ。アンタの動力はアタイの意思一つで切る事が出来るんだからな」


「チッ! いつか倒してやる」


「流石レアル様でございます、感服しました。カッコ、血涙」


 アトムビジョンは不満そうな表情を隠そうともせず。サイクルシステムは、なんだろう。レアルに反感をもってはいるようだ。その心の声的なものは隠した方が良いとはおもうが。


「アンタ、その言い方は何とかならないのか?」


「コミュニケーションとは意思表示をしてこそ成り立つのでございます。カッコ、爆笑」


「それ、完全にアタイをバカにしてるだろ」


「レアル様は素晴らしい、最強でございます。カッコ、棒読み」


 凄い個性的な人たちだ。あまり関わりたくない。いや、全力で遠慮したい。レアルの言い方や、見た目でわかるが、この2人もロウタと同じでレアルに作られた存在なのだろう。


「ハッ! そんな事どうでも良いんだよ。研究者の奴がこそこそやってたぞ」


「アイツ何やってるんだよ」


「知るかよ。そもそも、お前なんかに教えるか」


「そこまで言ってしまった時点で意味無いのでございます。カッコ、呆れ」


 研究者と言われて思い浮かぶのはエルフェだ。何か方法がどうのと言っていたが、このことだろうか。それにしても、何をやっているんだ。嫌な予感しかしない。


「くそ、アンタはここで待ってろ。サイクルシステム、アトムビジョンはアタイについて来い。エルフェから何を企んでいるのか聞き出すぞ」


 サイクルシステムとアトムビジョンは笑い出す。してやったとでも言うような表情だ。


「ハッ! バカめ! そんな必要はねぇよ」


「えぇ、こうなると思っていて話をしたのでございます。カッコ、嘲笑」


 サイクルシステムが腕を振るうと、空間が開き、そこから現れたのは……。


「おい、何のつもりだよ。テメェ。何を考えていやがる」


「エルフェはエルフェの道を選んだだけなのだよ。エルフェは昔から、誰かの道を辿るという事をしたことが無いのでね!」


 そして、エルフェは白衣からナイフを取り出し、レアルに突きつけた。

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