零の映写機希構

不穏な神聖

「最悪のパターンは、天使がメビウスを封じているフリをしているという事だ。あの陰険野郎ならやりそうなことだ。そうなると、レアルとメビウスは完全に繋がってやがるな」

　あの状況のことを思い出せ。そういえば、神聖の管理者は糸のようなもので封じられていた。同じ管理者なら何か知っているだろうか。

「神聖の管理者は糸のようなもので封じられていたようだが、何か知らないか」

「糸か、それなら信仰の天使オールグローリアだろうな。あいつは糸で他人を操れた筈だ、管理者レベルでさえも操れるなんて話は始めて聞いたけどな」

「神聖の存在は嘘を吐けないと言う話は本当か」

「あぁ、確かに天使は意図的に嘘を吐くことはできないな」

「糸を解くことは不可能、存在を消す位しかないと言っていた」

「ハァ？　マジかよ。それが本当だとしたら、くっそ意味わかんねぇ」

　存在を消さないと解けないほどの封印を使ってしまえば、騙すとかそれ以前に意味がないというか、それはただの自爆だ。

「そのジダイガって奴が混沌側だったって落ちは無いのか」

「むむ、エルフェが知らないだけという可能性が無い訳では無いのだよ。だが、可能性は殆ど無いと断言してもいいのだね」

「神聖側は俺達で探ってやるよ。既にロジクマスが中心に動いてるしな」

「エルフェは一応混沌側にジダイガというものが居るのか調べては見るのだよ」

　そうなると、自分は現状秩序側対策に力を入れつつ、レアルの動向を気にしておけばいいという事か。それと、もう一つ。イニシエンが本当に信用できるのか考えなくてはいけない。

「邪悪と言うのは、どんな存在なんだ」

「それなら、聞くが。もし、世界が滅びるとしよう。それを止める為には自身の大切な人を生贄にしないといけねぇ。お前はどうする」

「そんな簡単に答えなんて出せる問題じゃない」

「そうだろうな。神聖のやつ等は間違いなく生贄の方を選ぶだろうな、それが正しいことであれば神聖は躊躇無く動く。だが、俺達は世界が滅ぶ事も大切な奴が死ぬのも納得できねぇ、それくらいなら別の方法を探してやる」

「無理やりな答えだな」

「ふん。知ったことかよ。神聖は正しさとか、真実とかそういうのに拘るが、俺達には知ったことねぇ。大切なのは俺が納得できるかどうかなんだよ。善だとか悪だとか知るかよ、俺は俺のやりたいように、理想を求めるだけだ」

　神聖は受動的、その状態に対応して正しく動こうとするのか。逆に邪悪側は自ら望む状態にするために動く。静と動みたいな関係だ。

「だからな、俺様は魔王なんだよ。で、お前はこの世界に住む限り俺の民だ、俺が一つ命令を下してやる。異論は認めねぇからな」

「傲慢な話だ」

「いいか。絶対に死ぬんじゃねぇよ。生きてりゃ可能性なんていくらでも作れるんだ。解ったな、生きて決して諦めず覚悟を決めて突き進め。必要になったときは俺が道になってやる」

　イニシエンはそれだけ言うと、空間を殴りつけ割る。そしてその空間の間に歩いていき、その姿を消した。生きて決して諦めず覚悟を決めて突き進めか、なんだか信用してしまいたくなる。

「ふむ、エルフェはエルフェの方法で協力するのだよ。エルフェに何があっても心配はしてはいけないのだよ、それはエルフェの選んだ道なのだからね」

「一体何をするつもりなんだ」

「それに関しては言えないのだよ。だがね、この選択が間違いだとは思わない。エルフェの出来る最善策だと思っているのだよ」

　エルフェはそれだけ言うと、どこかに去っていった。一体何を考えているのだろうか、嫌な予感しかしない。それぞれがそれぞれの思惑で動いている、どう動くのが最善だろうか。

「あー、くっそ。フロウに逃げられちまったよ」

　レアルが戻ってきたようだ。今はエンシェントをどうにかするのが最善か。