魔王と学者

「ギヒャヒャ。まぁ、レアルは逃げたフロウを追ってどっか行っちまったみたいだな。追いつけないだろうが、一応俺も追ってみるよ。お前はここで待ってな、相性的に何とかブレスを押さえ込めたみたいだが、フロウには効かないと見ていいだろ」


「何故、ブレスはこの弓の力を解除出来なかったんだ」


 〈ウインドロッド〉の風魔法のように解除してしまえばよかっただけの筈だ。それなのにそれをしなかった為にブレスは追い込まれた。


「簡単なことだ、氷に擬似的な命を吹き込んでたんだろ。それは自然的ではないからな、精霊としては扱い難いんだよ。それじゃ、俺は行ってくる」


 グレアは森の中に入っていってしまった。下手に動いて道が解らなくなってしまっても、フロウに会ってしまっても困る為。ここで待っている。

 待っていると誰かが近づいて来る。レアルでもフロウでも、グレアでも無いな。あれはエルフェか。何しに来たんだ。


「むむ、やっと見つけたのだよ。レアルもいないようで非常に都合が良いのだよ」


「何かあるのか」


 エルフェはレアルとの関わりとは関係なく協力してくれるという。だからこそレアルが居ない方が良いという事なのか。


「エルフェは迷っているのだよ。エルフェは一つの道を既に考えている。だがね、その方法とはまさに混沌を象徴するような方法なのだよ。エルフェは既にレアルの思想に染まっているのかと考えると、どうにも簡単には実行できないのだよ」


「その方法とは一体」


「それを言うわけにはいかないのだよ。言ってしまえば君はエルフェを止めるだろう、だがね、これが道の一つであると確信しているのだよ。何があっても忘れてはいけない、君の力は多くの人の繋がりによって生まれるのだと」


 確かに記憶の再現。それは一つの記憶だけがその力の本質ではないんだろう。多くの記憶を状況によって使い分けること、それが自分の力なのだと。

 エルフェと話をしていると、空間に避け目が出来始めた、これはまさか


「ここに居やがったか。少し聞きたい事があるんだよ」


 邪悪の管理者ラギ・イニシエン。まだ自分はエンシェントの対策で返答を考える余裕なんて無い。ここで答えを出せと言われても。


「あぁ、返答を聞きに来た訳じゃねぇから身構えるなよ。どうせエンシェントとの戦いで考える余裕は無いんだろ。どうせなら手伝ってやりたいが、俺も色々考える事があるんだ。悪いな」


「聞きたいこととは」


「お前を見つけ出したのはレアルなんだろ、だがあいつの探知能力は大したこと無いからな、エンシェントよりも先にお前を見つけ出したっていうのが解せないんだよ。俺の考えではレアルは神聖の管理者メビウスと手を組んでると見た。本当に何か無いのか聞きに来たって訳だ」


 確かに、レアル1人では探知能力の低さによってエンシェントよりも先に自分を見つけたというのは不思議だ。イニシエンも言うほどなのだから、レアルの探知能力は本当に低いのだろう。だとすれば、優れた探知能力を持った存在と組んでる可能性を考えた方がいい。邪悪と秩序は除外、そうなると、神聖か中立なのだろう。


「中立の管理者は」


「中立の管理者は誰にも手を貸さない、それが中立としてのあり方だからな。管理者は大きな力を持つ代わりにその役目から逃れる事は出来ないんだ」


 そうなると、可能性があるのは神聖の管理者だけという事なのか。いや、従者も転移出来るということは探知能力を持つ可能性は。


「従者はどうなんだ」


「従者は主人の能力を借りて使ってるに過ぎない。従者本人が転移することは出来るが他人には出来ない、探知に関しては転移先をおぼろげに見る程度で使えた物では無い。そんな劣化能力では意味無いな」


 だとすれば、可能性は神聖の管理者だけだとするのだろうが、それさえも不可能と言わざるを得ない。何故なら


「神聖の管理者は、レアルの仲間らしいジダイガという人物によって封じられているんだ」


「ジダイガ? 誰だそいつは。てか、そんな有象無象如きにメビウスが封じられる訳ねぇだろ。あいつは何度もこの俺様を追い詰めているんだ。そんな名もしらねぇ奴に封じられる訳が無い」


「だが、現に封じられている所を見た」


「これも何らかの策なのか、いや、管理者の力が弱まっている現状でそんな賭けに出るとは思えない。そもそもレアルがメビウスの味方をしないことがおかしい」


「ジダイガが管理者では無いという事は、誰かの従者だと考えられる」


「そうか、俺の部下にはジダイガなんて奴は居ないな。エンシェントの部下にも居ない、あいつは新たに部下を加えたり出来ないからな。中立である筈も無い。可能性があるのは混沌と神聖だけだ」


「ふむ、話は聞かせてもらったのだよ。混沌側にジダイガなんて存在がいたと言う話は聞いたことが無いのだよ」


 そうなると神聖の管理者の従者が、主人を封じたという事か。そんな事するのかという疑問もあるが、アローンクローズと言う例がある。従者だからといって主人に完全に味方するという訳では無い様だ。


「神聖の従者が主人を封じたのか」


「いや、そんな単純な話じゃないだろ。考えたくもねぇ最悪のパターンがある」

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