混沌の本気

「じゃあ、そろそろ本気を出そうかな」


 どうやらアタイの実力を疑われているみたいだし。まぁ、確かに現状の全力に関しては隠さないといけないんだけど、だからと言って精霊ごときに勝てないと思われるのは不快なんだ。だから、アタイの実力を示すための犠牲になってもらおう。


「ブレスがあの者を倒すまで耐え切って見せましょう。魔法せんげん[ウインドブレード]」


「当たるかよ。混沌せんげん[レアル・ネットワーク]アタイの演算は世界のシステムさえも書き換える」


 直線的な風の刃を回避し、拳銃を取り出してシステムを書き換える。アタイの銃は風も貫くことにしておけば、ある程度のダメージは与えられるようになる。まぁ、本当にある程度だけどな。


「アタイの銃は風だって貫く」


 フロウに向って乱射はするけど、やっぱり相手は風。簡単には当たらないな。まぁ、方法は色々ある。少しずつ追い詰めてやろう。


「いつもの戦い方はどうしたのですか」


「一応弱体化してるからな、あまりエネルギーを使うわけにいかないんだよ。さぁ、アタイの弾丸は位置情報を自在に変えられる」


 弾丸の位置情報を書き換えて、フロウの後ろに弾丸を出現させる。流石に、致命傷にはならないだろうけど、ダメージにはなっていく。弾丸はフロウを貫いた。


「くっ。魔法せんげん[タイフーン・ハウト]」


 吹き荒れる風の刃。法則を書き換えるには数が多すぎる。まぁ、対策は簡単だ。アタイ自身の位置情報を書き換えることで、転移を繰り返す。そんな攻撃も当たらない。


「どんどん行くぜ、避けられるなら避けてみろよ」


 銃を乱射しつつ、弾丸をランダムに転移させる。どんなに高い機動力があったとしても、規則性も無く転移を繰り返す弾丸を避け続ける事は出来ないだろ。被弾し続けることで多少のダメージも積み重なっていくって訳だ。


「くっ……! 私1人では時間稼ぎさえ出来ないのですか」


「ほらほら、どうしたんだよ。アタイはまだ実力の1割も出してないぜ」


 フロウは弾丸を受けながらも、高い機動力で接近してくるが、アタイには速度なんて関係ない。位置情報を書き換えればいくらでも好きなところに存在できるからな。


「くらいなさい。魔法せんげん[ウインドブレード]」


「くらうかよ」


 接近した状態で放てば当たると思ったんだろうが、風の刃を放たれる瞬間に転移して、距離をとる。そして、拳銃をフロウに向け……? 居ない、アイツまさか逃げやがった?


「どこ行きやがった!」


 アタイは探知が苦手だ。転移先を見ることと、近くの気配を感じることしか出来ない。この探知範囲の狭さを解消する方法はあるんだけど、今それを使うわけにいかない。ヌルのほうは何とかブレスへの対抗策を見つけたみたいだ、だけどフロウまで入ってきたら対処できないだろうな。どうしようか。


魔法せんげん[ウインドブレード]」


 森の中から風の刃が飛んできた。これじゃ自分の位置を教えてるようなもんだ。ははーん、なるほどね。フロウはブレスが勝つことを確信してる。アタイに邪魔されないように自分を囮に誘き出したいわけだ。


「いいじゃないか。その鬼ごっこに乗ってやるよ」


 ヌルがブレスに勝つことに賭けてやるよ。面白いゲームになりそうだ。

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