熱き熱の精霊

 先ずは手始めに〈アンマグネクス〉を振り下ろし、ブレスを裂こうとするが、簡単に避けられてしまう。見た感じではフロウ程の機動力はなさそうだが、だからと言って当たってくれる筈も無いか。


「もしかして剣とか使い慣れてないの? そんな鈍い動きなら当たりようが無いよ。まぁ、とりあえずこれはどうかな。魔法せんげん[ヒート]」


 ブレスは赤い光球を手のひらから出現させる。それはただ漂っているだけで、特に何らかを引き起こしているようには見えないが、この光球が現れてから気温が一気に上がった気がする。


「熱を発しているのか」


「そういうこと、あたしにダメージを与えることは不可能。ただただ、命が燃え尽きるのを待てば良いだけなんだ。魔法せんげん[ヒート]」


 二つ目の光球。更に気温が上がる。このままでは熱によって体力が奪われていくだけだ。この剣は境界を作り何でも斬れるという。それなら、一か八か狙うのは光球。


「これはどうだ」


 フワフワと漂っているだけの光球は簡単に当てることが出来た。裂かれた光球は消えていき、気温も少し下がったようだ。


「なるほどね、でも無意味なんだ。命はいつか燃え尽きる運命、それに抗って時間を稼いでるに過ぎないんだよ。魔法せんげん[ヒート]」


 光球を裂いて消し去っても、ブレスがどんどんと次を発生させていく。先にスタミナがなくなるのは明らかにこちらだ。何か他の方法は。


「これはどうだ。魔法せんげん[ウインドフォーム]」


 〈ウインドロッド〉を呼び出し、自分の周囲に風を引き起こし熱から身を守る。今はレアルに頼るしかない、どうなるかわからないが、レアルがフロウを倒せる事を前提に、時間を稼ぐしかない。


「精霊に魔法は意味無い理由を教えてあげるよ。魔法って基本的に自然的現象を人の身で起こす事なんだ、自然の上位存在である精霊が対処できないわけが無いでしょ。魔法よ消えろ」


 自分を包む風の壁が消え去り、熱が襲い来る。残りは矢の無い弓しかない。〈ウインドロッド〉は指輪に戻し、一応弓を呼び出す。……。そういえば、この弓の名前は?


「矢も持ってないのに弓なんて出してどうするの。そろそろ諦めなよ、命は巡るものなんだから。一度自然に還ってまた生まれるだけの話だよ」


 そんなことにはのせられない。例え生まれ直したところで、それはもはや自分であるはずが無い。やはり、個を考えない精霊とは相容れないようだ。


「最後まで諦めるつもりは無い」


 そうだ。記憶が流れてくる。この〈氷結の弓〉を使っていたのは、擬似的な命を埋め込む錬金術師。そしてその使い方。弓の弦を引く。


「矢が無いのにどうするつもりだい」


 玄を引くと、そこに氷で出来た矢が出現し、放たれる。


「よりにもよってあたしに対して氷か。残念、溶かしてあげるよ。魔法せんげん[ヒート]」


 ブレスは更に光球を呼び出すと、気温がどんどん上がっていく。ただの氷ならすぐに解けてしまうだろう。


錬金せんげん[アイスネーク]」


 氷の矢は姿を変え、氷の蛇となり光球を飲み込み、自身は解けるが光球も打ち消した。更に玄を引くと一気に四本の矢を放つ。


「なんだと」


錬金せんげん[クアトロアイスネーク]」


 氷の矢がそれぞれ蛇となり、光球を飲み込み自身を溶かして消していった。これで気温は元通りだ。


「ふざけるな。魔法せんげん[紅点突破]」


 ブレスは炎の槍のようなものを創り出し、こちらに向かって投げてきた。玄を引き、1本の矢を放つ。


錬金せんげん[アイストーン]」


 放った氷の矢はアイスネークが解けて出来た水を吸収し、大きな氷の壁となり炎の槍を受けとめる。間伐入れず更に玄を引き、4本の矢を放つ。


錬金せんげん[クアトロアイスバッド]」


 氷の矢は、蝙蝠の姿となり、ブレスの周囲を囲むように飛び始める。明らかにブレスは不快そうな表情をしている。なるほど、予想どうりだ。


「くそ、追い込まれた」


 ブレスは熱のような存在。冷気を放つアイスバッドは言わば壁のようなもの。そして、玄を引き、一本の矢をブレスの頭上に放つ。


錬金せんげん[アイストーン]」


 ブレスの頭上に放った矢は壁となり、アイスバッドに囲まれて動けないブレスを押しつぶす。今がチャンスだ〈アンマグネクス〉を振り上げ、一気にブレスに接近する。


「舐めるなぁ! 魔法せんげん[紅点突破]」


 氷に押しつぶされた状態からでも、力を振り絞って攻撃してきた。マズイ、接近し過ぎて避けられず、防ぐ時間も無い。


魔法せんげん[ホリズド]」


 どこからか聞こえたグリアの声、炎の槍は何かに吸い込まれるかのようにどこかに行ってしまった。


「今だ!」


「グリア……! 何を」


 ブレスの身体を半分に切り裂くと、その身体は徐々に消えていく。


「ギヒャヒャ。させねぇよ」


 隠れていたであろうグレアが現れてブレスに近づいていく。


「糧になりな。調和せんげん[捕食者ありきの繁栄]」


 ブレスの姿は、分解されてグリアの口の中に。精霊を食べたのか、そんな事が出来るなんて。……。グリアの腹部が膨れているように見える。


「レアルとフロウは」

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