奇才の学者

「おお! これはこれは面白い! エルフェは感激なのだよ! おお、紹介がまだだったのだね。エルフェはロドキア・エルフェなのだよ。よろしくしてもらえるかね」


 〈ユアタウ〉の適当な家に入り、レアルに件の人物を呼んで貰ったのだが、到着早々にこちらを凝視してからの、これである。エルフェは変人であると確信した。

 外見的には子供が白衣を着ているようにしか見えないが、外見通りの子供ではない可能性がある。耳が犬のそれであるし、尻尾まであるのだから普通の人間ではないのだろう。そして、もう1人。青い服の少女が居るのだが、レアルの従者だろうか。


「ボクまで連れてくる必要無かったんじゃないの。本当に嫌なんだけど」


「そんなこと言うのではないのだよ。助手よ」


「え、ボク助手になった覚えないんだけど。まぁいいや、ボクはオーバーエフェクター。この名前嫌いだからロウタって呼んでよ」


「まぁ、そんな訳で。アタイの従者を2人連れてきたぜ」


 外見的には頼りにならなそう、何しろ少年と少女。どちらも子供にしか見えない。外見通りでは無いのだろうと、それでも印象というのは拭いにくいものだ。


「それにしても、今日のオーバーエフェクターはテンション低いな。なんかあったのか?」


「だからボクはレアルのこと嫌いなんだよね。わざとなんでしょ? それ」


「ほら、設定設定」


 オーバーエフェクターこと、ロウタは物凄い嫌そうな顔をしてから、どこからか拳銃を取り出し自分の頭に銃口を突きつけて。


「死にたいなら死ねば良い! こんな風に頭を打ち抜けば楽になれるぜ! ……。ハァー」


 空気が凍りついた。なんか物凄い微妙な時間が流れている。それこそ、1秒が30倍にでもなったような気分だ。


「だからやりたくなかったんだよ! 言っとくけどボクが考えた訳じゃないからな! レアルがボクを造ったときに変な設定を組み込んだのが悪いんだ!」


「レアルが造った?」


「ボクはレアルが造ったロボットみたいなものなんだよ」


 ロウタをじっと観察するが、どこをどう見ても人間にしか見えない。だとすれば、エルフェもロボットなんだろうか。あの耳と尻尾も納得できる。


「エルフェは機械ではないのだよ。エルフェはレアルの意図的な曲解によって無理やり従者にされてしまっただけなのだよ」


 これは怨まれても仕方が無い。言う事聞かなくなるのも当たり前だろう。ロウタとエルフェに睨まれているレアルだが、全く気にしていないようだ。


「そろそろ本題に入るのだよ」


「お、アンタ協力してくれるのか」


「エルフェはレアルには協力してるつもりが無いのだよ。エルフェは個人的に君を手伝いたいだけなのでね」


「そんな外見の癖に可愛くない奴だ」


 エルフェはレアルへの協力という事は嫌なようだ。まぁ、当たり前だ。だが、自分には協力してくれるという。どこまで頼りになるかわからないが、誰も居ないよりはマシだろう。


「ふむふむ、君は記憶の断片というものを扱っているのだね」


「そうらしい」


「誰かの記憶の断片が、物の形となって残っている。それを扱っているのだね。とても興味深いのだよ、非常に素晴らしいのだよ。さて、今この世界の人間は皆死んでしまって、一部の人の記憶の断片しか残っていない。ここまではわかっているのだね」


「だからこそ。自分にしっかりした自我があることが謎なんだ。記憶も無いために何故かが本当にわからない」


 自分だけ偶然生き残ったというのは現実的に考えられない。外部から来たというのも可能性が低い上に記憶が無くなる物でもない。自分の記憶という最大の答えが無いというのは、何かの意図さえも考えてしまう。実は何者かの意思によって目覚め、自分は動いているんじゃないか……。


「不安なのだね。そもそも自身が何者なのか。それが解らないというのはかなりのストレスになると思うのだよ。まぁ、安心したまえ。エルフェには君の存在の大まかな事が理解できたのだよ」


「本当か!」


 ただ自分は見られただけで何もしていないのに。もう何かわかったのか。何でも良い、少しのヒントでも欲しいんだ。何しろ本当に何も無いのだから。


「至極単純な話なのだよ。君は人間だけど、人間は皆死んでしまって記憶の断片しか残ってない。それなら答えは出たようなものなのだよ」


 その答えは……。


「君は記憶の断片なのだよ」

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