真実の欠片
「自分という存在が……。記憶の断片に過ぎないのか?」
自分の指についている指輪を見つめる。自分はこの記憶の断片と同じような存在で、自我があると思い込んでいるだけなのか。確かに、自分を自分だとする証拠なんてものは無い。断片でしかないのなら、記憶の欠如も証明できてしまう……。
「はぁ? なに馬鹿なこと言ってんだよ。コイツが記憶の断片な訳ねーだろ。確かに1個体として存在してるじゃねーかよ。それくらいアタイでも解るぞ」
殺気のようなものだろうか、ぞっとするオーラのようなものがレアルから発せられている。ように錯覚してしまう。それを真正面から受けているエルフェは動じていないが。
「間違いないのだよ。多少変則的だが、間違いなく記憶の断片なのだね」
「へぇ、話を聞いてやるよ」
「前提として、エルフェは境目を見る能力があるのだよ。君の姿は、まるでパズルのようなのだね。複数の記憶の断片が、お互いの足りないものを補うかのように、組み合わさり、一つの人格として完成した。それが君の正体なのだね」
「だから、自分は記憶の断片なのか」
「大丈夫。安心すると良いのだよ。君は記憶の断片だが、しっかり君と言うものはそこに存在しているよ」
そうなのか、自分は自分だったのか。記憶の断片を素材としただけの、しっかりとした1個体だったか。最初は心配になったが、なんだか安心できた。
「何故、記憶の断片は集まったんだ」
「ふむ、何らかの共通点があったようだね。共通した強い思いが君と言うものを組むきっかけになったのだろう。その部分に関しては、思い出してもらうしかないのだよ。まぁ、こういう事は時間をかけてゆっくりとやっていけばいい。そうそう、君が記憶の断片を扱えるのは、君自身が記憶の断片だからなのだね」
「はー、話を聞けば聞くほど不思議だなー。アタイもこのパターンは想定外だ」
レアルの殺気もスッカリ無くなり。今では何かを考え込んでいる。感情の触れ幅が大きかったりするのだろうか。すこし注意した方がよさそうだ。
「そんな事よりも! エルフェは感激なのだよ!」
「なにが」
「これぞキメラの究極系! エルフェの理想がここにあるのだよ!」
目を輝かせて迫ってくるエルフェ。純粋に狂った学者の姿を見たような気分だ。いや、実際にエルフェはどこかおかしいのだろうか。天才は紙一重と言うように。
「キメラとは複数の生物を同化させたものなのだね。そういうエルフェもキメラなのだよ」
「その姿はそういう事だったのか」
尻尾をぶんぶん振りながら話をする姿はまさに犬のようだ。目をキラキラさせている。
「いつしか死という別れが来る。それはこれ以上の無い苦しみなのだよ。エルフェも凄い辛かったのだよ、そして考えたのだよ。どうすれば永遠に一緒に居られるか」
エルフェの狂気が見えたような気がする。純粋で幼いゆえの狂気と、それを実現させてしまおうとするその知能。
「エルフェとエルフェの友達は一心同体になったのだよ! これなら永遠に別れることは無いのだよ! 何故なら本当に身体が一つになったのだから! 寂しい気もちにならないですむのだよ!」
エルフェの友達というのは犬のことなのか。それにしても、なかなか飛んだ発想としかいえないな。
「エルフェはこの技術の素晴らしさを広めるために、色々やったのだよ。だけど、他の人はなかなか受け入れてくれなかったのだよ。何故なのかね」
「当時合成生物研究者、エルフェは自分さえもキメラに改造してしまった狂気の科学者として広まっていたからねぇ。アタイとしては直接的に言うよりも、無理やり連れ込んで改造しちまえば良かったじゃないか」
「むむ、エルフェも無理やりは良くないってわかるのだよ。キメラの素晴らしさを説きに町へ行ったら石を投げられたりもしたが、いつか解ってもらえると考えていたのだよ。今更の話だがね」
確かに世界が滅びて人間が居なくなった世界で何を言っても仕方ないからな。それにしても、この2人は物騒だ。
「さて、エルフェはそろそろ帰るのだよ。色々と調べたいことがあるのでね。ロウタも連れて行くのだよ」
「ボクは助手じゃないんだけど。というか、ボクここに来る意味あった? 多分無いよね、なんで連れてきたの」
「そこに居たからだろ。まぁ、アンタ達はもう帰っていいよ。用はすんだからね」
「ねぇ、流石のボクも怒っていいよね」
銃をレアルに向けるロウタだったが、エルフェに引っぱられて退場していった。本当に何の為に来ていたんだろうか、考えると可愛そうになってくるので、考えないでおこう。
「じゃあ、アンタの疑問も解けたことだし、そろそろエンシェントを無力化するために。とりあえず精霊を各個撃破しに行こうか」
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