混沌への詰問
「聞きたいことがいくつかある。教えてくれるか」
「まぁ、そうだろうね。アタイに答えられることなら何でも答えるよ。アタイは人に使われる機械だからね。アンタの欲望を何でも肯定するよ」
逆に言うと、聞かれないと答えないという事か。それにしても、レアルは何かに使われる事を重要視している気がする。何故そんな事にこだわるのだろうか、普通であれば使われることに嫌悪感を抱きそうだが。
「メビウスとは誰だ」
「メビウスは神聖の管理者だよ。安息と平穏を与え、救済する存在」
安息と平穏を与え、救済する存在が世界を滅ぼそうとしているのか。管理者としての役割とは矛盾していると思うが。そんなことよりも、そんな奴が自分に近づいていたとイニシエンは言っていた。本当だとすれば、何も無いというのは非常に不穏だ。何が起きているのか、起きるのかも解らない。
「メビウスは近くに来ていたのか」
「確かに近くまで来たよ。だけどアンタは神聖の管理者メビウスが近くまで来たら知らせてくれなんて言ってないじゃないか。だからアタイは言わなかったよ」
「今度近くまできたら教えてくれ」
「解った。アタイはその欲望を肯定するよ。今度近くに来た時は教えるよ」
まるで機械と接しているみたいだ。レアルが自発的に動くのを期待できないな、こうなったら自分が色々と考えなくてはいけないのか。
「次に、外部とはなんだ」
「〈外部〉っていうのは、この世界の外側のことだよ。イニシエンが何でそんな勘違いしたのかアタイにはわかんないや。もしかしたら、いないはずの自我を持った人が居たから、外部から来たんだと思ったのか、でも流石にそこまで安直じゃないとは思いたいんだけど」
「その可能性は無いのか?」
外部から来たから自我を保っているが、そのときの衝撃で記憶を失ってしまったというのは考えられる。納得できる答えだと思えるのだが。
「うーん。外部から人が来たのはこの世界が誕生して本当に初期の頃だけで、それからずっと外部から来る人は居なかったから可能性は殆ど無いと思うね」
「外部に出ることは出来ないのか」
「一度この世界に入ってしまったら出ることは出来ないよ。例外はあるみたいだけど」
「例外とはなんだ」
「そんなのわかんないよ。少なくとも、出れる可能性があるのは外部から来た人だけらしいから。考えるだけ無駄じゃない? そもそもね、外部から来て記憶が無くなるなんてことは無かったからね。アンタは多分違うよ」
折角有力な答えが出たと思ったら振り出しか。この際だから、記憶喪失と自我についてレアルにしっかり聞いておこう。聞かれなかったから答えないなんていわれても困ってしまう。その前にもう一つ聞きたいことがある。
「イニシエンの言っていた〈零の映写機希構〉とはなんだ」
「えーと、この世界の中枢みたいなものかな。なんて説明したらいいのかわかんないよ」
この世界の核みたいなものだろうか、イニシエンはそれに接続して世界を変えたいと言っていた。そんな事がただの人間に可能なんだろうか。
「〈零の映写機希構〉に繋がるなんて可能なのか?」
「外部からなら出来るらしいけど、それはアンタが〈外部〉の存在であって、更に〈外部〉に出られる事が前提だろ? 可能性を考えること自体馬鹿らしい。そもそも、〈外部〉に出られたとして、アンタに〈零の映写機希構〉を弄くる能力あるの?」
確かに、自分にそんな理解出来ないようなものを操作する能力があるとは思えない。イニシエンの考えは既に破綻しているのか。
「確かに無理そうだ」
「そうだろ? イニシエンは何も考えもせずに行き当たりばったりで、なんか言われても気にしないほうがいいよ」
「一応、聞いておきたいことがある」
「いいよ。聞かれたことに対しては何でも答えるよ。アタイはそういう存在だからね」
「自分の自我が何故残っているのか、何故記憶が無いのか」
もしかしたら、聞かれなかったから答えなかっただけで、何かを知っているかもしれない。ちゃんと聞いておくべきだ。
「言ったじゃん。アタイそういうのは専門外なんだよ。教えたくても解らないものは解らないよ。でも、そういうの詳しそうなのが居るから。呼んでこようか? アタイに反抗的だから言う事聞くかわかんないけど」
「レアルの従者か」
「そゆこと」
「一応お願いする」
「解ったよ。呼んで来るけど、ここだと嫌がるだろうから、一旦〈ユアタウ〉に戻ろうか」
「わかった」
反抗的とのことだろうから、あまり期待は出来ないだろうけれど。それでも何か情報が欲しい。自分とは一体なんなのか。
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