邪悪の管理者

 レアルに頼み、いくつか世界を巡ったのだが、海のある世界〈チアルビ〉では特に何も見つからず。〈プロウス〉という世界にいたってはあまりの熱さに探索なんて出来るような場所ではなかった。後で聞いた話だが、活火山ばかりの世界で、マグマが所々から噴出していたりするらしい。そんな場所に連れて行くなと怒りそうになったのは仕方が無い。


「この世界も暑いな」


 次に連れてこられたのは、四方が砂に覆われた。どこからどう見ても砂漠としか表現出来ないような世界だった。ここもあまり長時間は居られなさそうだが、溶岩よりは断然マシだ。


「この世界は〈イエロザ〉だよ。一応来てみたけど、何かがありそうじゃないねー、砂しかないや」


 それなら何故この世界を選んだ。無いかも知れないからといって、絶対に無い訳では無いのだから別に良いのだけれど。


「他のところ行った方が良いのでは」


「そうだね。別のところにいこ……何かが来る!」


 唐突に目の前の空間が、割れた? 目の前の景色が二つに割れ、空間の間から、鎧を着た大男が悠然と歩いてきた。間違いない、この男は管理者だ。


「俺様は邪悪の管理者であり、魔王ラギ・イニシエンだ。移動しまくりやがって、探すのに手間取っただろうが」


 そんな事言われても困ってしまう。そんな事よりも、自分を探していた? 邪悪の管理者という位だ、何か陰謀というか、思惑があってもおかしくない。


「なんだよ。アンタには用は無いんだけど」


「レアルの用があって来た訳じゃない。用があるのはお前だ。あー、名前はなんだ」


「一応ヌルと名乗っています」


 このイニシエンという邪悪の管理者は、見た感じかなり粗暴そうだ。素の性格なんだろうか、陰謀とかそういうのには無縁に見えるが、油断するわけにはいかない。


「俺はメビウスみたいになんか色々考えて利用するとか、回りくどい事はできねぇから。単刀直入に言うぞ。俺達の仲間になれ!」


 急に現れた魔王に仲間になれと言われても、どう反応すれば良いのかわからない。それにメビウスとは誰なのか。


「急に言われても困るのだが」


「メビウスに何言われたのかはしらねぇけどな。俺達はこのフザケタ世界を理想の世界にするために色々やってるんだよ」


「そもそも、メビウスとは誰だ」


「は? メビウスに会ってないのか?」


「メビウスという人に会ったことはない」


「そうか、それなら俺の勘違いだ。悪かったな、メビウスの気配がお前に近寄っていたようだから、接触して何か言われたんだと思ってた。今回はレアルも無関係か」


 何の話かいまいち理解出来なかったが、どうやらただの勘違いだったらしい。知らない内に何かに巻き込まれたのではと、少し焦ってしまった。


「今アタイはどうしようか考え中だから」


「それじゃあ、俺と世界に革命を起こさねぇか」


「アンタは今まで何かを変えられた事無いだろ」


「今回はヌルが居る。おまえ〈外部〉からの接続だろ」


「は? 外部からの接続?」


 知らない事が次々と……。レアルが黙っていたのか、イニシエンが色々知っているだけなのか。おそらく前者だろう。それにしても、どういう事だ。イニシエンは自分というものがどういったものか知っているとでもいうのか。


「違うのか? まぁ、なんにしても〈外部〉と似たような質を持ったヌルなら〈零の映写機希構〉に接続することも出来るだろ」


「接続してどうすんだよ」


「この世界の在り方を書き換えんだよ。民が理不尽な思いをしない最高の世界を! それを望むのは王として当たり前のことだ」


「夢物語もいい加減にしろ! そんな事出来るわけがねぇだろ。アタイはな、一度はアンタを信じて失敗したと思ってんだよ」


「出来る出来ないなんて知ったことか。俺は最悪の方法だろうと関係ねぇよ。理想と最高を得られるならどんな道でも前線を突き進んでやる! ヌル、お前もこの世界に生きる以上は俺の民だ、異論は認めねぇ! 王は民の道となり導く存在だ。それだけの覚悟を間違いなく持っているぞ。黙って俺様について来い!」


 どうしよう。何故かこの人を信用してしまいたくなる。愚直なまでの真っ直ぐさだろうか、不思議な安心感がある。


「急に言われても困るって言うんなら、後で俺の部下を向わせよう。その時に答えを聞かせてくれ。じゃあな」


 イニシエンは拳を突き出すと空間が割れた。その割れた空間に向かって悠然と歩いていき、イニシエンの姿が見えなくなると同時に、空間も閉じた。この人が邪悪の管理者か……。

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