自己完結の天使

「まぁ、そのことはとりあえずおいといて。この世界は断片を寄せ集めたハリボテの世界って説明したよな?」


 置いといて良い事なのかわからないが、今考えても仕方ないことだな。確かに今までの説明ではこの世界は断片を寄せ集めたハリボテの世界という認識だ。


「断片を寄せ集めたものの、それが完全に繋がっているという訳ではないんだよ。何となく解るだろ。さっきまで居た世界も、この世界も断片の内の一つだ」


 なるほど、本当の意味で寄せ集めただけの世界なのか。繋ぐことも出来ずただ集まっただけの世界。不安定なことこの上ないな。


「んで、呼び名が無いと不便だからな。さっきまで居た世界は〈ユアタウ〉この世界は〈リプダク〉という名前だって覚えておきなー」


 名前がわかったほうが把握しやすいな。とはいえ、解ったところで自力では移動できないのだから意味があるのかといえば、不明だが。


「ん? なんか音がしないか?」


「音? 確かに」


 耳を澄ますと何か、羽ばたきのような音がする。それも徐々に近づいてきている。これはもしかして見つかったのでは


「精霊なら音なんか立てないで来るはず。アレらは精神体みたいなものだからね」


 精霊じゃないとすれば誰なんだ。完全にこちらに気づいているようで、扉が開くと。そこに白い翼と金の輪、天使としか表現出来ないような少年が入ってきた。


「あ、レアル久しぶり」


「なんだ、アンタか。驚かすなよ」


「知り合いか?」


 一番に考えるべきなのは、混沌の管理者としての従者なんだろうが、この姿を見てレアルの部下というイメージは持てない。寧ろ


「うん。そうだね。僕はアローンクローズ。神聖の管理者の部下みたいなことをやってる天使だよ」


 世界を滅ぼした神聖の管理者の従者……。油断できるものではない筈だが、レアルは気楽そうだ。もしかしたら


「うん、そうだね。僕は世界を滅ぼした神聖の管理者の従者で疑わしいんだよね。知ってるよ。だけど考えてみてよ、従者だからって主人と同じ思考をしてるわけではないんだよ。僕としては世界が滅びようが存続しようがどうでも良いね」


「アタイの従者なんか全然言うこと聞かないしな」


 それは流石にどうかと思う。そこまで部下に見捨てられる事は無いだろ。自分が従者だったら……確かにあまり従いたいとは思わないが。


「レアルは自業自得だと思うんだよね。うん、反論する気は無いというか吹っ切れてるから気にしてないんだよね、知ってるよ。だけど最低限の人望ってあった方が良いと思うんだ。そうそう、獲物は食いついてるよ。だけど、やっぱり1人では大変だと思うんだ。だから僕が手伝っても良いと思ったりもするんだけど、レアルの能力は手数だもんね。僕必要ないんだよね。うん、知ってたよ」


 なんだこいつは……。自分でごちゃごちゃ話しては勝手に完結して。というよりも気になる事がある。獲物は食いついてるってどういう事だ。何かを誘導したのか


「獲物とはなんだ」


「君はとっても深読みしたがるんだね。うん、レアルも僕も信用できないから何とか自力で答えを出そうとしてるんだよね。知ってた。だけどね、答えなんか出したところで何か変わるのかい。事実は事実でそうあるだけのものなんだから何も変わらないよね。そんな事して楽しいかい?うん、わかってるよ。今君に出来る事は真実を見つけることだもんね、それしか道標が無いから僕がなんと言おうと意味が無いんだよね。うん、知ってたよ」


 紛らわしいというか、面倒な会話をしないと発作でも起きるのだろうか。これが素なのか何かを誤魔化したいのか。


「だけど、間違いではないんだよね。いや、全然合ってないんだよ。僕は別に何かする気も無いし、何かしようっていう事も無いんだ。君は疑っているみたいだけど、僕はそういう存在なんだって。なんと言おうとも疑わしいのは変わらないんだね。うん、知ってる。そういう事を聞きたいわけじゃないんだよね、解ったよ。そろそろちゃんと伝えるね。僕は近くに精霊が居るって警告しに来たんだ。うそじゃないかって? うん、本当は嘘だよ。レアルに会いに来ただけだからね。天使は神聖の権限だから基本的に嘘なんてつけないんだよ。だから、精霊が来てるっていうのはホントなんだ。そして、僕は巻き込まれたくないから帰るね」


 アローンクローズは言いたいことだけ言ったら、咄嗟に部屋の窓を割りそこから飛び出して行った。本当に何しに来たんだか。


「アローンクローズの言った通り、天使は嘘をつけないから。本当に精霊が来るんじゃないかな」


 レアルがそう言うと、扉がバタンと開き、突風が部屋を通り抜けた

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