巡り風の精霊

「私は第四位、巡り風の精霊フロウです。初めまして」


 突風と共に、少女が入り込んできた。だが、その少女は宙に浮き、周りに風を纏っていることからも、本当に風の精霊なのだろう。


「フロウまた邪魔しに来たのか。アタイとしてはそろそろ良い加減にして欲しいんだけど」


「貴方が何かを企んでいるからでしょう、散々人を巻き込んでおいてそれは無いのでは」


「アンタが巻き込まれに来るんだろ」


「それ以前に余計な事をするのをやめてください。貴方が何もしなければ私も動く必要が無いんですよ」


 フロウとレアルは口論をしている。話を聞く限り、どうやらこの2人には因縁のようなものがあるみたいだが、あまり知りたくは無い。


「さて、それはそうと。そこの異物にはここで消えていただきます。今この世界は非常に不安定です。不確定要素を放置していたら今度こそ世界が完全に崩壊してしまうかも知れません。協力をお願いします」


「異物ではない、ヌルだ。消えてくれといいながら協力とは、馬鹿らしいとしか言えない」


 この精霊は、何かが起こるかも知れないから、自分に死んでくれといっている。それでいて協力とは、理解しがたい話だ。


「命は巡り、大地に還る、大地は育み、命は尚巡る。貴方の命は地に還るだけのことなのです、そしてまた新たなる命の糧となるのです。何故、そんなに拒絶するのですか」


「だからさ、精霊の考え方は人間には合わないってさ。共生と調和の概念なんて解りにくいし、解りたいとも思わないな!」


 個の考えを無視した共生の思考なのか。自然を一つの命とする解釈ならば、言われている事は解る。それでも、自分個人として、何かあるかも知れないから死んでくださいなんて、受け入れられるわけが無い。


「自分には、精霊の考えは受け入れられない」


「ほらな?むしろアタイ達の犠牲と発展の思想の方が人間的だ。自然は元々あったものだけど、文明は人間によって創造されたものだからな」


「そうですか。それでも、私達は世界を守る者。極小の可能性であろうとも、見逃すことは出来ないのです。申し訳ありません」


 フロウを中心に風が竜巻のように動き始めた。相手は自然的な存在、覚悟を決める必要がありそうだ。レアルは混沌の管理者と名乗っていたが、その見た目はただの女性に過ぎず、目の前の風の権限を打倒出来るほど強そうには見えない。


「たった一人の精霊で、混沌の管理者であるアタイに勝てるとでも思っているのかい。悪いけど、コイツを殺させるつもりは無い」


「やはり……何か企んでいるのですね……」


「いや、自分は何も」


「そうだ、エンシェントの影響力を根こそぎ奪って、世界を好きなように作り変えるっていうのはどうだい?面白そうだろ。そうだな、アンタの好きなように世界を作れるんだ、アタイがその欲望をかなえてやるよ」


「いや、待て」


 このタイミングでそんな事言うのか。完全に秩序側と敵対することになるぞ、自分が。それに、そんな事思ったことも無ければ、する気も無い。これは完全にレアルに嵌められているのか。


「やはり、そうなのですね……。世界を守るためになんとしても私は貴方を倒します」


 ほら、完全に勘違いされた。どちらにしても自分を殺しに来ている訳だから敵対しなくてはならないのだが、そういう意味での敵対とは違う。このままではこちらが完全に悪役。レアルはどこからかハンドガンを取り出して、フロウに突きつけていた。


「世界だとか自然だとか、知ったこっちゃ無いな。人は今まで多くのものを犠牲に発展してきたし、それが止まることはない。更なる進歩の為なら世界だって犠牲にしてやる。じゃあ、とりあえず文明の犠牲になれよ。フロウ!」

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