誰かの記憶

「簡単に言うと、同じところにずっと居ると、エンシェントに見つかるから、移動しようって訳」


「移動といっても」


 ここに来てすぐに探索を開始したが、大して広くない土地と、その周囲を取り囲むように存在しない空間がある。行動範囲が狭すぎるんだ。


「大丈夫、大丈夫。ほら、アタイの身体に触れな」


 そう言って手を差し出すレアル。もしかしたら、管理者は他人を転移させることも出来るのか。差し出された手を掴む。


「少し気分悪くなるかも知れないけど、絶対手を離すなよ?虚無の空間に落としたらさすがのアタイも探すのが大変だからな」


 景色がぶれ始めた、まるで絵の具をかき混ぜるように、景色と景色が重なって・・・。気持ち悪くなってきたため目を瞑る。なんだ、簡単な対策があったじゃないか。


「よし、転移完了」


 目を開くと、広がる草原に、建物がぽつんと存在している。そして、やはりこの場所も黒い空間に囲まれている。最初居た場所に似てはいるが、完全に違う場所のようだ。


「なぁ、気分悪くなったか」


「目の前がシェイクされるとこんなにも気分悪くなるんだと、感心してしまうぐらいだ」


「それなら、アンタ機械の身体は欲しくないか? 気分悪くなることも無いし、とっても丈夫だ。寿命なんかも気にせず色々なことが出来るぞ」


「いや、遠慮しておく」


「チッ・・・コイツの魂を組み込めば面白い機械が組めそうだったのによ」


「聞こえてるんだが?」


「えー、アタイなんの話かわかんないもーん」


 やっぱり油断しない方がよさそうだ。下手な返答をするとマズイことなるだろうな。……そういえば、レアルの目的はなんなのかわからない。現状レアルに得になるようなものは無さそうだ。もしかして、隙を見て自分の魂を奪おうとしているのか?


「うん。あまり警戒しないでよ。アタイは欲望を肯定する機械だよ。望まれないことは出来ないんだって、アンタをこの場所に転移できたのも、アンタからアタイに触れてくれて、尚且つ転移するものだと思って拒絶しなかったからなんだ。アタイは科学と文明の管理者だけど、生命体は管轄外だよ」


「その辺は納得しておくが、そもそもレアルの目的はなんだ」


「それは考え中。アンタはこの世界にとっての不確定要素だし、何か変化を促すものになるかも知れないだろ。だから一緒に行動して様子を見てるって訳、エンシェントに消されるのも面白くないし、アタイには殆ど世界を掌握する力が無いからね。遠くで見守ることも出来ないんだよ。強いて言えば、転移するときに転移先を見る程度の掌握能力で、エンシェントはその場でほぼ全域を常に見れるぐらいだね」


「そういう事にしておくか」


 レアルはあまり信用しないほうが良いと思うが。管理者にはそんなに差があるのだろうか。いや、この話が本当だとして、この差を埋める何かがレアルにあると考えた方が良いかも知れない。


「いいから、丁度そこに建物あるし入ろうよ。話はそれからで良いでしょー」


「そうだな」


 ずっと外に居ても仕方が無い。この場所に唯一ある建物に入ると、やっぱりここも今まで誰か住んでいるんじゃないかと思わせるほどに綺麗だ。だが、一つだけ違和感。何故か、部屋の中央に剣が刺さっている。


「これはなんだ」


 装飾なんかも無い、凡庸な大剣。だが、どうしても気になってしまう。確かに不自然に部屋に刺さっていたりしたら、不思議に思うのは当たり前だが。そういうこと以上に何かがある。


「これは誰かの記憶の断片みたいだね。記憶の断片がその人の持ち物として具現化したんじゃないかな」


 これが誰かの記憶の断片。その剣に触れてみると、それは光の粒子になって散ってしまった。


「まぁ、断片でしかないし。記憶であって人じゃないからね」


 散った光の粒子を見ていると、徐々に自分の周囲に集まってきた。


「これは?」


「んー?なんだろ」


 光の粒子が左手に集まると指輪に変化した。正直どういうことなのか解らないが、これは悪いものでは無さそうだ。……どちらにしても、外そうとしても何故か外せないのだが。


「不思議なこともあるもんだね。アタイ想定外だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る