混沌の管理者

「アタイの役割は変化を促すことだ。欲望を燃料に、犠牲を礎に、文明を発展させる。この世界が停滞して流れを失い腐った川にならないように、循環させるシステムなんだ」


「なるほど」


 話を聞く限り、管理者というのは世界を守る存在。神聖や秩序というのは納得できるが、混沌や邪悪の存在する意味が解らなかった。バランスを取るというのはそのままの意味なんだろう。


「秩序はアタイ達混沌が暴走しないように抑制するし、アタイ達は秩序が世界を停滞させすぎないように変化を促すんだ」


 シーソーのような関係か、つまりは片方が居なくなってしまえば世界のバランスを保つどころの話ではなくなってしまうという訳だ。世界が新しくなるたびに管理者が生き返るというのも納得だ。


「まぁ、こんな事情はあったりするんだけど。秩序の管理者エンシェントに狙われてるから、そろそろ移動した方が良いかも知れないな」


「気にすることなのか」


 その関係が正常運行というのなら、態々気にして移動する必要は無いのではないだろうか。それに、レアルには空間転移がある。その時にでも十分に逃げることが出来るはずだ。


「まず、大前提として。管理者は空間転移が出来るけど、それをする為にはもちろん空間掌握能力も持っているという事なんだ」


「当たり前の話だな」


 転移先がわからないのに、その場所に移動するなんてことが出来るわけがない。そうなると、管理者は世界全域を見る目があるという事だ。


「エンシェントは秩序の管理者。全体の安定化を計るという性質上、特に空間掌握能力に優れているんだ」


「つまり、筒抜けということか」


「流石に丸見えにはしない、アタイは混沌の管理者。矛盾を内包する科学の権限、綺麗な自然とは違うんだ。何が言いたいかっていうと、エンシェントが見る事に特化するなら、アタイは誤魔化す事に特化している。そうでなかったら、この場所にエンシェントの部下〈精霊〉達が押し寄せてくるだろうな」


「それなら問題ないのでは」


「いや、誤魔化した所で、それはどこに居るのかわからない程度の事。アタイと誰かが居るというのは掌握されてるはず」


「誰かっていうのは、自分の事か。だが、それがどうかしたのか」


「アタイもそうだが、それ以上にアンタが狙われるんだよ」


「は?」


 エンシェントの役割は過剰な変化を引き起こす混沌を抑制すること、自分は混沌の1人でも無ければ、世界に何かしらの害を持ってきたわけでもない。秩序の管理者に追われる意味が解らない。


「問題は現状だ、今この世界は残骸を寄せ集めたハリボテ。エンシェントは世界を守るためならどんな些細な不確定要素も排除しようとするくらい過敏になってるはずだ」


「……レアルが問題じゃないか」


 混沌の管理者と何か企んでいる人間として映っている訳か。ただでさえボロボロな世界にこれ以上何かしらの干渉をして欲しくないから、行動する前に潰してしまおう。過激な発想だが、世界の管理者としては行動するしかないって所か。


「アタイも問題だろうけど、それ以上にアンタ自身が問題なんだぜ」


「覚えが無いが」


「言っただろ、この世界は崩壊した世界の断片を繋ぎ合わせて、何とか世界の形をしてるだけの場所なんだ。アタイ達管理者と、管理者に仕える従者は〈世界転生システム〉で生き返るけど」


「何か問題があるのか」


「今、この世界は正確に人間が居ないんだ。世界を破壊されたせいで、人間のデータも断片しか残らなかったから、残留思念、もしくは記憶の断片しか残っていない」


「つまり」


「完全に自我を持っているアンタは」


 秩序の管理者に追われてもおかしくない不確定要素ということなのか

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